突入電流とは?3つの事例で徹底解説:変圧器・モーター・コンデンサ

突入電流とは?3つの事例で徹底解説 受変電

はじめに:なぜ突入電流の想定は重要なのか?

電気機器に電源を投入した瞬間、定常時の何倍もの大電流が流れる現象を「突入電流」と呼びます。一般的には数倍から十数倍に達することが多く、ヒューズやブレーカの誤動作、機器の部品破損、あるいは電源系統全体の電圧降下を引き起こすことさえあります。こうした突入電流は短時間の現象ではあるものの、設計者や保全担当者にとって見過ごせない現象です。

突入電流の計算を行う目的は、こうしたトラブルを未然に防ぐためです。特に保護機器の選定や電源容量の決定においては、定常電流だけでなく突入電流のピーク値を正しく把握することが求められます。もし突入電流を考慮せずに設計すれば、電源投入のたびにヒューズが溶断したり、遮断器が不要開放動作を繰り返すなど、プラントの安定した運転が不可能になります。

本記事では、代表的な突入電流が大きな影響を及ぼしやすい3つの電気機器「変圧器」、「モータ」、「コンデンサ」を取り上げ、それぞれで突入電流が発生する仕組みと簡易的な想定方法を解説、現場での設計や対策に活かせるよう整理していきます。突入電流を理解することは、電気設備の安全と信頼性を確保する第一歩です。


事例1:変圧器(トランス)の励磁突入電流

変圧器は電源投入時に「励磁突入電流」と呼ばれる大電流が流れることがあります。この原因は鉄心の残留磁束と電源電圧の位相が一致しないことにあります。この場合に、交流電圧がゼロから立ち上がる瞬間に投入すると、鉄心が磁気飽和しやすくなり、結果として定格の10~30倍近い励磁突入電流(いわゆる『励突』)が流れることがあります。特に容量が大きいトランスや単相トランスでは、この現象が顕著になります。これまでのT係長の経験則で言えば、下記でひとまず見ておけば問題はあまり発生しません。

 高圧三相トランス(500kVA未満):15倍
 高圧三相トランス(500kVA以上):20倍
 低圧三相トランス:12倍
 高圧単相トランス:20倍
 低圧単相トランス:25倍

実務的には、一旦上記のような想定で進めておきます。基本的には0.2secで既に半減しているのが、励磁突入電流の大きな特徴です。0.2sec時点で、ヒューズなどの遮断器の特性曲線の最小値が、上述の想定よりも大きければ良いです。最終的に、トランスメーカからの励磁突入電流の資料をもらった後に、この影響を考慮して、より適切なヒューズや遮断器の特性を選定します。具体的なトラブル事例などは下記の記事も合わせてご覧ください。


事例2:モータの始動電流

誘導電動機では、起動直後(主回路MCがONした時)に「始動電流」と呼ばれる大電流が流れます。モータが停止している状態では回転子が誘導起電力を発生せず、等価的にインピーダンスが最小となるためです。その結果、巻線には定格の6〜8倍、場合によっては10倍近い大電流が流れることがあります。この突入電流は、モータの始動方式や遮断器、コンタクタ選定に直結する重要な要素です。

また、近年は省エネへの要請が高まり、誘導電動機は原則的に、トップランナ―を用いなければなりません。これにより、始動電流も従来は6倍程度で良かったものが、12倍程度となる事例に、T係長は何度も出会っています。特に、既存設備の更新の場合には注意が必要ですね。一端の想定としては下記で良いでしょう。最終的には、モータメーカから始動電流の設計値資料を入手してから、より適切な遮断器を選ぶようにしましょう。(始動方式は多くの場合、この段階では動かせないことが多いでしょうから)

 非トップランナーモータ:8倍
 トップランナ―モータ:12倍

この大きな始動電流によって、ブレーカやケーブルに大きなストレスを与えてしまいます。そこで、実務ではスター・デルタ始動やリアクトル始動といった減電圧始動方式を導入し、突入電流を抑制する対策をすることも多いです。詳しくは、下記の記事も合わせてご覧ください。


事例3:コンデンサの突入電流

コンデンサは電源投入直後、未充電の状態では短絡とほぼ同じ挙動を示すため、瞬間的に定格電流の50~70倍もの大きな突入電流(充電電流)が流れます。この充電電流は、数百μsから数msという短い時間で減衰しますが、ヒューズなどの遮断器に大きなストレスを与えるため無視できません。私たち電気エンジニアは、コンデンサ用のヒューズを、その容量に従って選定することを忘れないでください。

補足ですが、特に力率改善用コンデンでは、上述の突入電流への対策が不可欠です。対策としては、直列リアクトルを設置します。とは言え、内線規程(JEAC8001-2016)や、高圧受電設備規程(JEAC8011-2014)において、力率改善用の進相コンデンサへの直列リアクトルの設置は高圧・低圧共に「義務」となっていますので、特段気にする必要性はありません。各負荷のコンタクタ二次側に並列で接続されるコンデンサに関しては、直列リアクトルを設置せずとも、誘導電動機(誘導性負荷)の始動電流(-j)が、コンデンサ(容量性負荷)の突入電流(+j)と相殺してくれますので、あまり気にしなくて大丈夫です。

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まとめ

突入電流の理解は、単なる理論の暗記ではなく、現場を守るための確かな「武器」です。変圧器の励磁突入、モータの始動電流、コンデンサの充電電流――これらはすべて、電気エンジニアにとって避けて通れない現象です。たとえ瞬間的な現象であっても、設計段階で想定を誤れば、ヒューズの溶断やブレーカの誤動作、さらには設備の停止といった深刻な結果を招きます。逆に言えば、突入電流の大きさと継続時間を正しく見積もり、それに基づいて保護機器や電源容量を選定できる技術者は、トラブルを未然に防ぐ力を持つということです。

突入電流を理解することは、単に安全性を確保するだけでなく、設備の信頼性と運転効率を高めることにもつながります。現場での経験と理論を結びつけ、自らの設計に根拠を持たせる――その積み重ねが「プロの設計力」を育てていきます。数字を読む力、現象を想像する力、そしてそれを現場に反映させる力。この三つを意識して突入電流と向き合えば、あなたの設計は確実に一段上の領域に到達します。突入電流を制する者は、設計を制す――その信念を胸に、次の案件でも自信をもって挑んでいきましょう。

この記事を書いた人
T係長

30歳で制御設計の世界に飛び込み、未経験から10年以上にわたり、プラント設備の制御設計・更新・改造案件に携わってきました。これまで100件を超える現場経験を通じて、設計図面から制御盤、シーケンス制御、保護協調まで幅広い電気技術を磨いてきました。
保有資格は「第二種・第三種電気主任技術者」「第二種電気工事士」「基本情報技術者」。資格の枠にとらわれず、現場で困っている人を助けられる技術者であることを大切にしています。
このブログ「誠電気設計」では、初心者や若手エンジニアの方にもわかりやすく、実務に役立つ知識を共有しています。学びを通じて、読者とともに成長し続けることを目指しています。

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