はじめに
工場やビルなどのプラントの高圧受変電設備では、効率的に電力を利用するための仕組みが数多く導入されています。その中でも「進相コンデンサ」と「直列リアクトル」は、高圧受変電設備の健全な運用を支える欠かせない設備です。
これらは単なる補助的な負荷ではなく、①力率改善や②電気料金削減、③設備保護、④高調波対策といったプラント管理の根幹に関わる重要な機器です。本記事では、この4つのテーマを軸に、電気設計や保全業務で押さえておくべきコンデンサとリアクトルの実務知識を解説します。この記事を読むことで、高圧受変電設備の設計において、どのようなことを意識すれば良いか、適切に選定できないとどんなトラブルが起きてしまうのか等を正しく理解し、初心者エンジニアからプロへ成長し、日頃の業務を円滑に進めることができます!
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力率とは何か?なぜ改善が必要なのか
「力率」とは、電力をどれだけ効率的に使っているかを示す指標です。理想的な力率は、電流と電圧の位相が一致しており、1(100%)となる状態です。しかし、モータやトランスなどの誘導性負荷を多く含むプラントにおいては、電流の位相が遅れてしまい、力率が80~85%程度に低下してしまうことも少なくありません。このように、力率が低下してしまうと同じ有効電力を得るためにより大きな電流が流れ、送電ロスや配線容量の増加を招きます。一般的に「無効電力」が発生している状態です。
送電網に悪影響を与えてしまうため、電力会社はこの無効電力を嫌ます。そこで、力率を改善すれば、契約電力を抑え、結果的に電気料金を削減する契約にしていることが一般的です。これを「力率割引」と言います。力率が85%を上回ると(1-力率)で基本料金が割引されます。※力率が進みとなる場合は1で計算します。
さらに、力率を改善すると、電線や変圧器に流れる電流も小さくなるため、機器の発熱が抑えられ、電気機械器具の寿命を延ばす効果もあります。つまり、力率改善は、省エネ対策であると同時に、設備保護の基本でもあるのです。
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進相コンデンサと直列リアクトルの基本と役割
進相コンデンサは、無効電流を打ち消すための機器です。進相コンデンサは電圧の位相に対して電流が進む性質を持つため、誘導性負荷の遅れを相殺し、力率を1に近づけることができます。しかし、進相コンデンサは単独で使用すると、投入時に定格の70倍にも相当する大きな突入電流が流れたり、系統の高調波成分と共振して異常電圧が発生することがあります。これを防ぐために欠かせないのが「直列リアクトル」です。
直列リアクトルは、コンデンサと直列に接続され、主に二つの役割を果たします。一つは、コンデンサ投入時の突入電流を抑制すること。もう一つは、開放時の再点弧の防止です。そして、副次的な効果として、系統に存在する第5次や第7次といった高調波成分の拡大を防ぐ効果があります。特に第5次高調波(250Hz)は工場のインバータや整流回路から多く発生するため、6%リアクトルを直列に挿入する設計が一般的です。ちなみに、実はテレビなんかでも第5次高調波は発生します。
ただし、忘れて欲しくないのは、直列リアクトルは「高調波を除去する機器ではない」ということです。直列リアクトルは高調波の流出拡大を防ぎますが、高調波電自体を抑制する機能は持ちません。したがって、根本的な高調波対策を目的とする場合には、別途フィルタリング装置の導入が必要になります。
設置基準と法規上のポイント
進相コンデンサ設備を設ける際には、電気設備技術基準(電技)および内線規程の遵守が必須です。これらの規程では、力率の目標値として0.95以上が求められており、電力会社との協議によっては0.9を下回らないことを条件とするケースもあります。また、設置場所は高圧母線に設けることが多いですが、低圧母線側に設置することも有ります。両者の違いに関しては後述します。
まず第一に重要なのは、直列リアクトルの選定値です。このリアクトルは、6%または13%のリアクトルが採用されます。標準的には第5次高調波を効率的に抑制できる6%品を選定することになります。一方で、第3次高調波の抑制に効果的な13%品を使用するのは、都市部などの高調波が非常に多く電圧ひずみ率が大きい場合です。電力会社からの指導に従いましょう。どちらを選ぶかを需要家で判断しないといけないわけではありません。
直列リアクトルは必須なの?
ここまで、直列リアクトルが設置されることを当たり前のように記載しましたが、進相コンデンサと直列リアクトルのセット設置は、日本の内線規程(JEAC8001-2016)や高圧受電設備規程(JEAC8011-2014)に基づいた必須の対策です。
ここで、プラント設備に関わる方は「うちの電動機にはコンデンサしかついてないけど違反?」と疑問に思うことあるかもしれませんが、特に問題はありません。上記の規定は母線に設置される設備共用のコンデンサに関する規定です。電動機などの個別の負荷に設置されるものは、そもそも、電動機が運転しない場合にはコンタクタがOFFのため母線から切り離されていますので、高調波の引込みはありません。コンタクタがONとなり電動機が動いている場合には「電動機という圧倒的な遅れ力率の負荷」があるので、先述したような危険が発生しないので問題ありません。
また、「古い設備だとリアクトルついてませんよ、違反?」と思われるかもしれません。一旦は問題なしです。確かに上記の義務化は1998年ですから、ぎりぎりまだ古い既定のまま運用されている設備も存在しています。盤の寿命は25年程度が一般的ですから、結構頑張って使っている方です。限界が近いと思われます。更新の際には「既設と同じ」では通りませんので、十分に注意してください。
私たち電気設計エンジニアにとって、「内線規程」は必須の書籍です。出来る限り最新版を手元に置いておきたいところですね。
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高圧と低圧、どちらに設置すべきか
進相コンデンサをどこに設けるかは、設備設計上の大きな判断ポイントです。まず、高圧母線に設置する場合のメリットとして、全負荷の力率を一括して改善できる点が挙げられます。受電点で力率調整を行うため、電力会社から見た系統全体の力率が向上し、契約電力の低減に直結します。また、設備全体の電流を減らす効果があるため、主変圧器の損失低減にもつながります。省エネ化に貢献しやすいです。変圧器は繋いでいるだけで電気を消費し続けますから、実は馬鹿にできないのです。
一方で、高圧側への設置にはいくつかのデメリットも存在します。まず、高圧機器としての取扱いになるため、設備コストが高く、設置や保守には専門技術と資格が必要です。さらに、コンデンサ投入時に発生する突入電流が大きく、保護リレーの設定も慎重に行う必要があります。
これに対し、低圧母線に設置する場合は、安全性とコストの面で有利です。低圧盤内に組み込みやすく、点検や交換も比較的容易です。プラント内の特定の系統だけを部分的に力率改善したい場合にも適しています。しかし、低圧側で補償を行っても、変圧器自体の無効電力は改善できません。したがって、系統全体の力率を向上させる目的では、高圧側設置のほうが効果的と言えるでしょう。
実務的には、総合的な効率とコストの観点から、多くの現場では変圧器一次側、すなわち高圧受電母線への集中設置が採用されている印象が、T係長の目線では多いように感じます。負荷のバランスや保守性を考慮しつつ、必要に応じて低圧コンデンサを併設するハイブリッド構成も十分検討に値すると思います。
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高調波対策としてのフィルタリング技術
近年、インバータやLED照明、スイッチング電源などのノン・リニア負荷が増えたことで、高調波によるトラブルが顕在化しています。高調波は配線や変圧器の発熱、計測機器の誤動作、進相コンデンサの劣化など、さまざまな問題を引き起こします。
このとき注意すべきなのは、直列リアクトルを入れていても高調波は除去できないという点です。リアクトルは共振を避けるための保護装置であり、高調波成分そのものを抑制する能力はありません。そこで登場するのが「高調波フィルタ」です。
高調波フィルタには大きく分けて受動型(パッシブフィルタ)と能動型(アクティブフィルタ)の2種類があります。受動フィルタは、コンデンサとリアクトルを組み合わせて特定の次数の高調波を吸収する方式です。構造がシンプルでコストも低く、5次や7次など明確なターゲットを持つ系統に向いています。これに対して、アクティブフィルタは電流をリアルタイムで検出し、逆位相の電流を生成して高調波を打ち消す方式で、より広範囲な次数に対応できます。ただし、制御装置を含むため価格は高く、制御系のメンテナンスも必要です。
実際の設計では、まず現場の高調波成分を測定し、どの次数が支配的かを特定します。次に、電力会社の系統連系規程や高調波抑制ガイドラインを確認し、規制値に適合するように対策を立てます。5次高調波が顕著なら5次同調フィルタ、より広範囲にわたるならアクティブフィルタを採用するといった選定が基本です。
まとめ
本記事では、高圧受電設備に不可欠な進相コンデンサと直列リアクトルについて、その基本原理から法規上の設置義務、そして応用的な高調波対策までを解説しました。これらの機器は、単なる力率改善による電気料金削減に留まらず、突入電流や高調波共振から設備を守る保護の要でもあります。特に、リアクトル設置は内線規程に基づく必須の措置であり、古い設備を更新する際は注意が必要です。高調波対策としてのフィルタリング技術(受動型・能動型)の知識も習得し、高圧/低圧の適切な設置位置を判断することで、貴社の電力設備の安定稼働と省エネ化を盤石なものにしてください。


