はじめに:公式暗記という「砂上の楼閣」を崩そう!
電験三種の勉強を進める中で、誰もが一度は「公式が多すぎて覚えきれない」という壁にぶつかります。T係長も初めて電験三種に挑戦したの時、そうでした。特に同期機の分野で登場する
\( P = 3 \displaystyle\frac{ V \times E }{X_s}\dot\sin\delta \)
という出力公式は、分母と分子の組み合わせや、三角関数の種類など、うろ覚えの状態では本番で必ず迷いが生じるものです。公式をただ暗記することは、土台のない砂の上に楼閣を築くようなもので、少し条件が変わればすぐに崩れ去ってしまいます。
端的に言えば、T係長は覚えることを諦める戦略を選びました。単純に怠け者だったと言われればその通りです。T係長は、公式を覚えるのではなく「その公式をどうやって導くか」を自分自身で再現することを目指しました。特に「同期機」の分野では、この誠電気設計のブログの中でたびたび主張しているように、「ベクトル図を正しく描く」ことができれば、公式は覚えるまでもなく、図形の中から自然と浮かび上がってきます。この記事では、三相交流を発生させる同期機の公式をベクトル図と結び付けながら理解し、あなたの理解を本質的レベルまで高めます。電験三種、電験二種の試験でもう迷うことはなくなります!
同期機とは?社会を支える「電気の源」の物理的な意味
出力公式の具体的な導出に入る前に、本記事で扱う「同期機」という機械の正体について整理しておきましょう。電験の勉強にチャレンジする中で、知らず知らずのうちに「試験の合格」が目標になってしまい、実務的なつながりや、どう生活で活かすのかを忘れてしまうことは少なくありません。そうなってしまうと単なる「お勉強」として途端につまらないものになってしまいます。
さて、話を戻しましょう。同期機(同期モータ)とは、回転速度と交流の周波数が完全に同期して動く電気機械を指します。磁極の回転速度である「同期速度」と、そこから発生する交流電圧の周波数が、数学的な比例関係によって寸分の狂いもなく一致しているのが最大の特徴です。
\( N_s = \displaystyle\frac{120f}{p} \) 〈同期速度〉
これだけでは意味がよく分かりませんが、私たちプラントエンジニアが、ブロアやポンプなどで触れる「誘導機(誘導モータ)」と比較するとその違いはより明確になります。誘導機には「すべり s 」があるのでしたね。
実務において同期機が最も活躍しているのは、日本中の電力を支える巨大な発電所です。火力、水力、原子力を問わず、大規模な発電施設ではこの同期発電機が主役であり、私たちが日々使っている電気のほとんどはこの機械から生み出されています。つまり、同期機の出力公式を理解することは、現代社会を支える巨大なエネルギーの「送り出し方」を理解することに他ならないのです。電験三種で重要分野となっていることに合点がいきますね。
同期機は正確な回転(ワーク位置決め)が求められる産業用ロボットや電気自動車、エレベータの駆動源としても重宝されています。発電機としても電動機としても、同期機の中では「磁界の回転」と「電気の流れ」が完璧なリズムを刻んでいます。このリズムをベクトルという幾何学的な形に置き換えて考えることで、難解な数式の裏にある物理的な実体が見えてきます!
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等価回路とベクトル図(モデル化の第一歩)
同期機の挙動を分析するためには、下図ようにまず実物を電気的なモデル、すなわち「等価回路」に置き換える必要があります。同期発電機は、内部で発生する誘導起電力(E)と、外部へ出力される端子電圧(V)、そして内部にある同期リアクタンス(\(X_s\))の3要素で構成されるシンプルな回路として考えるのが基本です。電機子抵抗(\(r_a\))は非常に小さいため、通常は無視して進めますが、ここでは敢えて記載しておきましょう。


この回路において、電流(I)が流れると電機子抵抗と同期リアクタンスによって \( I \times r_a j \times I \times X_s \)という電圧降下が発生します。これをベクトル図に描く際、①まずは基準として端子電圧(V)を水平右方向に引きます。②次に遅れ力率の電流(I)をVから右下方向へ角度( \(\theta\) )で引きます。

電機子抵抗による電圧降下 (\( I \times r_a \)) は電流 I と同相ですので、③Vから伸びます。次の同期リアクタンスによる電圧降下 (\( j \times I \times X_s \)) は、電流(I)よりも位相が90度進んだ方向に向かうため、④電流ベクトルの向きに対して垂直な線をVの先端から描き足します。⑤最後に、Vの始点から電圧降下の終点までを結んだベクトルが、内部誘導起電力(E)となります。ここで V と E がなす角( \(\delta\) )を「負荷角」と呼び、この角こそが出力公式の核となります。


そして、このベクトル図を式にすると、下記となります。これが次章の出力公式の導出の出発的ンになります。そして、三平方の定理を使う形を目指すのがこれから目指すところです。
\( \dot{E} = V + \dot{I}r_a + j \dot{I}X_s \)
出力公式の導出(幾何学的な証明)
それでは、作成したベクトル図を使って出力公式を導き出してみましょう。この章の目標は、単相の電力基本式 \( P = 3 \displaystyle\frac{ V \times E }{X_s}\dot\sin\delta \) を、電流(I)を使わずに V、E、Xs、 \( \delta \) だけで表現することです。
最初に注目するべきは、ベクトル図の中に隠れている「縦の長さ」です。誘導起電力(E)の先端から、基準線であるVの延長線に対して垂直に線を下ろしてみます(線分 \( CH_1 \) )。この垂直な線の長さは、直角三角形の幾何的な関係から \( E \times \sin \delta = CH_1 \) ・・・① と表すことができます。


上記の図から次の3つの式が定義されます。
\( \sin \theta = \displaystyle\frac{a}{c} \) ・・・①
\( \cos \theta = \displaystyle\frac{b}{c} \) ・・・②
\( \tan \theta = \displaystyle\frac{a}{b} \)
上記の①と②を変形すれば
\( a(縦) = c \times \sin \theta \) ・・・③
\( b(横) = c \times \cos \theta \) ・・・④
が得られます。この③や④を用いて式変形をすることが多いですね。
もう少し補足をします。中学生の時に習った「三平方の定理(\( a^2 + b^2 = c^2 \))」が出発点です。両辺を \( c^2 \)で割ると
\( \displaystyle\frac{a^2}{c^2} + \displaystyle\frac{b^2}{c^2} = 1 \)
が得られます。次に①と②を用いると
\( \sin^2 \theta + \cos^2 \theta = 1 \) ・・・⑤
が得られます。③と④、⑤が電験でよく使用する式です。これだけを覚えようと努力しないでください。何度も何度も問題演習で利用しているうちに、自然と覚えていくものです。T係長も気づいたら覚えていました。

一方で、この垂直な線\( CH_1 \)は、\( CH_1 = CH_3 – BH_2 \) によっても表すことが出来ます。\( \triangle CBH_3 \) に着目すると、
\( CH_3 = CB \times \cos \theta = X_s I \cos\theta \)
また、\( \triangle ABH_2 \) に着目すると、
\( BH_2 = AB \times \sin \theta = r_a I \sin \theta \)
です。これによって、
\( CH_1 = CH_3 – BH_2 \)
\( CH_1 = X_s I \cos\theta – r_a I \sin \theta \) ・・・②
①と②は等しいので下記の式が得られます。
\( E \times \sin \delta = X_s I \cos\theta – r_a I \sin \theta \) ・・・③
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次に注目すべきは、ベクトル図の中に隠れている「横の長さ」です。\( OH_1 \)は、直角三角形の幾何的な関係から \( E \times \cos \delta = OH_1 \) ・・・④ と表すことができます。先ほどと同様に別の三角形に注目してみましょう。

\( OH_1 = OA + AH_2 + H_2H_1 \) です。
\( \triangle ABH_2 \) に着目すると、
\( AH_2 = AB \times \cos \theta = r_a I \cos \theta \)
また、\( \triangle CBH_3 \) に着目すると、
\( H_2H_3 = CB \times \sin \theta = X_s I \sin \theta \)
です。これによって、
\( OH_1 = OA + AH_2 + H_2H_1 \)
\( OH_1 = V + r_a I \cos \theta + X_s I \sin \theta \) ・・・⑤
④と⑤は等しいので下記の式が得られます。
\( E \times \cos \delta = V + r_a I \cos \theta + X_s I \sin \theta \) ・・・⑥
ここで、電機子抵抗は同期リアクタンスに比べて非常に小さいので、無視できます。これにより、③は⑦へ、⑥は⑧へと変換されます。
\( E \times \sin \delta = X_s I \cos\theta – r_a I \sin \theta \) ・・・③
\( E \times \sin \delta = X_s I \cos\theta \) ・・・⑦
\( E \times \cos \delta = V + r_a I \cos \theta + X_s I \sin \theta \) ・・・⑥
\( E \times \cos \delta = V + X_s I \sin \theta \) ・・・⑧
⑦の等式を電流成分である \( I \times \cos\theta \) について解くと下記の式が得られます。
\( I \times \cos \theta = \displaystyle\frac{E \times \sin \delta}{X_s} \)
これを1相分の電力の基本式\( P = V \times I \cos\theta \)に代入すると、
\( P = \displaystyle\frac{ V \times E }{X_s}\dot\sin\delta \) が得られます。
従って、3相分の電力
\( P = 3\displaystyle\frac{ V \times E }{X_s}\dot\sin\delta \)
という公式を導出することができました。公式は暗記する対象ではなく、「ベクトル図上の一つの高さを二通りの方法で表した結果に過ぎない」ということが、このプロセスで実感できるはずです。⑧を使っていないじゃないか、と思われたかもしれません。その他の問題でもよく使うので、少し遠回りですが、紹介しました。③(⑦)と⑥(⑧)はすぐに自分でベクトル図を描いて導けるようにしておくのが、電験三種突破のための基本です!
過去問で確認!電験三種 2024年下期 機械 問15(改)
理論を学んだところで、実際の過去問を解いて「導出の力」を確認しましょう。ここでは、公式の形だけでなく、電圧の扱いや単位の変換など、受験生が間違いやすいポイントを実戦的に解説します。
定格電圧 6600V ,定格出力 8MV⋅A の三相同期発電機がある。この三相同期発電機において,界磁電流が 200A における無負荷端子電圧は 6600V であり,この界磁電流での三相短絡電流は 800A であった。この三相同期発電機について,次の(a)及び(b)の問に答えよ。なお,この三相同期発電機の突極性は無視し,電機子巻線抵抗及び鉄損と機械損は十分小さく,計算上は無視できるものとする。
(a) この三相同期発電機における一相分の同期インピーダンス[Ω] を求めよ。
(b) この三相同期発電機を端子電圧 6600V ,力率 1.0 で運転したところ,負荷角は 30°であった。このときの発電機の出力[MW]を求めよ。
いきなり解き始めるのではなく、まずは1相分の等価回路を描いて状況を整理するのが最初です。電機子抵抗 \(r_a\) は無視できるとの条件がありますので、下図となります。

図より、\( \dot{E} – jx_s \dot{I} = \dot{V} \) ・・・⑨です。また、本問の条件に当てはめると「界磁電流が 200A における無負荷端子電圧は 6600V であり」の記載から
\( E = \displaystyle\frac{6600}{\sqrt{3}} = 3813.512 \)V (相電圧)
が判明します。「無負荷端子電圧は無負荷時の内部誘導起電力に等しい」ことを理解しておくことが大前提です。また、1相分の相電圧に換算することを忘れないでください。ここは覚えてしまいましょう。また、「三相短絡電流は 800A であった」の記載から
\( V = 0 \)V ※短絡しているため。
\( I = 800 \)A
も判明します。従って、⑨に代入すると、
\( 3813.512 – x_s \times 800 = 0 \)
\( x_s = 3813.512 \div 800 = 4.76689 = 4.77 \)Ω ・・・(a)答え
そして1相分の等価回路から、ベクトル図を描くのが次の作業です。下図のようになります。


上記のベクトル図より次の式が得られます。
\( E \cos\delta = V \)
今、発電機の端子電圧を 6600V で運用しているので、
\( \displaystyle\frac{6600}{\sqrt{3}} = E \cos 30° \)
\( E = \displaystyle\frac{6600}{\sqrt{3}}\times\displaystyle\frac{2}{\sqrt{3}} \)
\( E = 4400 \) V
また、1相分の発電機の出力\(P_{G1}\)は
\( P_{G1} = V \times I \) ※Iが不明なので求めたい
\( E^2 = V^2 + (x_sI)^2 \) ※三平方の定理
\( I =\sqrt{E^2 – V^2} \div x_s \)
\( I =\sqrt{4400^2 – 3813.512^2} \div 4.76689 = 460.425 \)
従って、3相分の発電機の出力\(P_{G3}\)は
\( P_{G3} = 3 \times P_{G1}\)
\( = 3 \times V \times I \)
\( = 3 \times 3813.51 \times 460.4250 \) W
\( = 5267505.857 \) W
\( = 5.27 \) MW・・・(a)答え
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まとめ:本質理解が合格への最短ルートである
同期機の出力公式の導出から過去問の適用までを解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。最初こそ「公式を覚えた方が早い」と感じるかもしれませんが、電験三種という試験の本当の恐ろしさは、単なる数値の当てはめが通用しない応用問題にあります。その際、あなたを支えてくれるのは、丸暗記した公式ではなく、自分自身でゼロから描いたベクトル図の記憶です。
誠電気設計が大切にしているのは、こうした「急がば回れ」の精神です。等価回路を書き、ベクトル図を描き、幾何学的な関係を数式に落とし込む、これら一連の一見泥臭いプロセスを繰り返すことで、電気の挙動が手に取るように分かるようになります。そして、その理解が深まったとき、合格はもはや単なる通過点に過ぎなくなります。
機械科目の他の分野、例えば変圧器や誘導機も、すべては一つの等価回路とベクトル図から始まります。ぜひ、この記事をきっかけに「ベクトル図で考える」習慣を身につけてください。その小さな一歩が、あなたを本物のエンジニアへと変える大きな転換点になるはずです。よりベクトル図について知りたい方は下記の記事も合わせてご覧ください。



