はじめに:なぜポンプの「脈動」を軽視してはいけないのか
プラントには欠かせない負荷が「ポンプ」です。このポンプ、特に往復動ポンプ(詳細後述)を使用する現場では、周期的な振動や耳障りな騒音に悩まされることが少なくありません。これらは単なる不快な現象ではなく、ポンプの吐出圧力が不規則に変動する「脈動」が原因で引き起こされる深刻なトラブルの兆候です。
この脈動は、配管の継手やバルブに過大な応力を繰り返し与え、金属疲労による摩耗や破損を早めます。さらに見落とされがちなのが、この脈動が電気系統に与える影響です。脈動による急激な圧力変動は、ポンプの駆動源であるモータに負荷変動として伝わり、電流値の変動を招きます。これによりモータ巻線の発熱が増加し、絶縁劣化による寿命短縮や焼損のリスクが高まります。インバータ制御を行っている場合、電流の急激な変化が過電流保護(過負荷予測アラーム)を誤作動させ、突然のポンプ停止を引き起こすこともあります。
この記事では、脈動の問題を根本から解決する設備である「エアチャンバ」に焦点を当て、電気設備設計者の視点からその仕組み、導入効果、そして実践的な選定・設置方法までを詳しく解説します。
往復動ポンプとは?
ポンプと一言で言っても、その種類は多岐にわたります。先ほど解説した脈動トラブルは、特に往復動ポンプと呼ばれる種類で頻繁に発生します。往復動ポンプとは、その名の通り、ピストンやダイヤフラムなどの部材が往復運動することで、流体を吸い込み、押し出す方式のポンプです。ポンプの脈動を理解するためには、この往復動ポンプの構造を把握することが不可欠です。往復動ポンプには、主に以下の3つのタイプがあります。
1. ピストンポンプ
シリンダ内をピストンが往復運動することで、流体を吸入・吐出します。シリンダとピストンの隙間をシール(パッキン)で塞いでいるため、高圧での送液が可能です。家庭用の井戸ポンプや油圧機器など、幅広い分野で使われています。構造がシンプルで耐久性が高い反面、吐出量が一定ではなく、脈動が発生しやすいという特徴があります。
2. プランジャポンプ
ロッド状のピストンである「プランジャ」を往復運動させて、吸込み側より吐出し側へ押出す方式の往復ポンプです。前述のピストンポンプと、プランジャポンプとは似ていますが、シール機構がシリンダ側にあるのがプランジャポンプの特徴です。ピストンポンプはシリンダとピストンの隙間にシールがあります。
この構造により、ピストンポンプよりもさらに高い圧力(超高圧)での送液が可能となり、高圧洗浄機や堅い金属の切断機として用いられます。こちらもピストンポンプと同様に、脈動が大きくなる傾向があります。
3. ダイヤフラムポンプ
金属やゴム製の膜であるダイヤフラムを往復運動させ、その容積変化で流体を吸入・吐出します。ダイヤフラムが流体と駆動部を完全に隔離しているため、液漏れのリスクが極めて低いのが最大のメリットです。有害な薬品や衛生的な流体(食品、医薬品など)の送液に広く使われています。吐出量や圧力を調整しやすい一方で、逆止弁のメンテナンスが重要になります。逆止弁の付近に異物が溜まってしまい、動きが悪くなると、ポンプ性能が下がり、吸引も吐出もできない状態になってしまいます。また、逆止弁にキズがついても同じ状況になってしまいます。
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エアチャンバの基本:流体システムにおける「コンデンサ」の役割
エアチャンバは、内部に空気を封入した圧力容器であり、流体の圧力変動を吸収して流れを平滑化する装置です。ポンプが流体を吐出する際に圧力が高まると、内部の空気が圧縮されてエネルギーを一時的に蓄えます。逆にポンプが停止し、吐出圧力が低下すると、蓄えたエネルギーを放出し、配管内の圧力を安定させます。ポンプ停止後もゆるやかに送液が続きます。


この挙動は、電気回路におけるコンデンサの役割と全く同じです。電圧が変動する回路にコンデンサを挿入すると、コンデンサが一時的に電荷を蓄えることで電圧の変動を抑え、出力を平滑化します。エアチャンバも同様に、流体エネルギーの変動を吸収し、システム全体の安定化に貢献します。私たち電気エンジニアにとっては、エアチャンバの重要性をコンデンサになぞらえることで、直感的に理解しやすくなりますね。
話を戻しましょう。このような脈動が抑制されることで、モータの負荷変動が軽減され、消費電力の変動幅が小さくなります。これにより、省エネルギー化が図れるだけでなく、インバータの制御応答性が向上し、より精度の高い運転が可能となるのです。
選定と導入:失敗しないための実践的アプローチ
1. 容積の選定
エアチャンバの効果を最大化するには、適切な容積の選定が不可欠です。一般的には、ポンプの吐出量や脈動率から計算しますが、メーカの提供する選定ツールやグラフを活用するのが現実的です。容積が不足すると脈動を十分に吸収できません。一方、過大な選定をしてしまうと、コスト増と設置スペースの無駄につながります。
2. 材質と圧力定格
使用する流体の性質(化学薬品、高温、高圧など)や設置環境条件に応じて、最適な材質を選定する必要があります。ステンレス製は高い耐食性を持ち、幅広い流体に対応しますが、PVCや樹脂製は安価で軽量なため、一般的な水や低圧の流体に適しています。また、システムの最高使用圧力を必ず確認し、それに耐えうる圧力定格の製品を選ぶことは、安全上最も重要な要件です。
3. 設置とメンテナンス
エアチャンバは脈動が最も大きいポンプの吐出直後に設置するのが基本です。これにより、脈動が配管全体に伝播する前に吸収し、効果を最大限に発揮できます。また、必ずリリーフ弁(安全弁)も合わせて設置し、締め切り運転による配管破裂を防止します。加えて、設置時には配管内の異物混入を防ぎ、振動による接続部の緩みを定期的に確認することが、長期的な安定稼働には不可欠です。メンテナンスとしては、エアチャンバー内部の空気圧(通常は窒素などが多いです)が低下していないか定期的にチェックし、必要に応じて補充する必要があります。経年劣化による内部ゴム膜の交換も、2~3年ごとの実施が推奨されています。
渦巻ポンプでも脈動は起こる!
これまで往復動ポンプでの脈動について解説してきましたが、「弊社の設備は渦巻ポンプだから大丈夫だろう」と安心している方もいらっしゃるでしょう。しかし、渦巻ポンプなどでも、特定の条件下では脈動が発生し、トラブルとなることがあります。ここでは、T係長も遭遇した、注意すべき2つの事例を紹介します。ちなみに、これらのトラブルを解決するのにも、エアチャンバ―の設置が有効です。
事例1:複数ポンプの並列運転
大規模な揚水設備で、複数のポンプを並列で運転するケースは少なくありません。それぞれのポンプは個体差や経年劣化、または制御設定の違いにより、わずかに吐出圧力や流量が異なります。このわずかな差が、ポンプ間で圧力干渉を引き起こし、配管内で脈動を発生させることがあります。
各ポンプから吐出された流体が配管の合流点で衝突し、圧力の急激な上昇と下降が発生してしまうのです。これにより、圧力計や流量計の指示値が細かく変動し、正確な測定ができなくなります。さらに、周期的な圧力変動が配管に伝わり、共振による大きな振動や騒音が発生します。これが隣接する機器や建屋の構造物にも悪影響を与えることがあります。
事例2:ポンプが設計外の条件で運転
渦巻ポンプは、最も効率良く設計された「運転点」と呼ばれる特定の条件下で最高の性能を発揮します。ところが、実際の現場では、需要の変動に合わせて運転点が変わり、設計点から大きく外れた条件で運転されることがあります。特に、ポンプが低流量で運転される場合に脈動は顕著になります。
この低流量運転時にポンプ内部でキャビテーションが発生します。キャビテーションとは、圧力が著しく低下し、飽和水蒸気圧以下になると流体中に気泡が発生し、この気泡が崩壊する際にインペラやケーシングを叩く衝撃波が発生します。これは強い振動と騒音を伴い、ポンプ自体を損傷させてしまう現象です。
このような問題は、夜間など需要が少ない時間帯に発生しやすく、気づかないうちにポンプの効率を低下させ、故障のリスクを高めています。
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まとめ:エアチャンバがもたらす総合的なメリット
ポンプの脈動は、単なる物理的なトラブルだけでなく、電気系統の不安定化を招き、システム全体の信頼性を低下させます。エアチャンバは、流体システムの不安定性を吸収し、電気的負荷の平滑化に貢献する重要な設備です。
適切なエアチャンバの選定と設置、そして定期的なメンテナンスを実践することで、配管や機器の寿命延長、制御の安定化、さらには電力効率の改善といった多角的なメリットが期待できます。現場の課題を「機械」と「電気」の両面から深く捉えることで、より効果的なプラントの運営が可能になり、設備全体の信頼性と運用効率を飛躍的に向上させることができるのです。私たちエンジニアの責務は、自分の専門分野以外との連携を持ち、多角的にアプローチすることです。

