もらい事故を防ぐ!DGR位相特性試験のやり方と保護協調の基本

重大事故を防ぐ!DGR位相特性試験と保護協調の基本 受変電

はじめに

受変電設備の保守点検において、過電流継電器(OCR)の試験と並んで欠かせないのが地絡保護継電器(DGR/67)およびSOG制御装置の試験です。OCRが「短絡」や「過負荷」という目に見えやすい異常からプラント設備を保護するのに対し、地絡保護は「絶縁破壊」という、目に見えず、かつ波及事故に直結しやすい深刻なトラブルを監視しています。OCRについては別記事で解説をしています。

実務で役立つOCR試験ガイド|東京電力管内の2段整定とJIS基準
はじめに過電流継電器(OCR)の試験を単なる保守点検のルーチン作業と考えてはいけません。OCRは受変電設備における「頭脳」であり、事故が発生した際にどの範囲を、いつ切り離すべきかを決定する司令塔の役割を果たしています。設計者が図面上で行った…

特に地絡事故は、私たち自身の設備だけでなく、電力会社の配電線を通じて近隣一帯を停電させる「波及事故」を引き起こすリスクを常に孕んでいます。電気主任技術者にとって、受電点のPAS(SOG)と各フィーダのDGRが、設計通りの精度と協調関係をもって動作することを証明することは、単なるルーチンワークではなく、社会的責任を果たすための「契約」に近い重みを持っています。本記事では、マルチリレー試験機を用いた位相特性の確認方法まで徹底的に解説します。


そもそも地絡とは?

「地絡」とは、電線や電気機器の絶縁体が劣化や破損によって破れ、電路の一部が大地(地面)と電気的に接続されてしまう現象を指します。家庭で言うところの、いわゆる「漏電」の規模が大きくなったものであり、私たちの関わる電気設備、特に高圧受変電設備においては最も警戒すべき事故の一つです。

通常、電気は絶縁された電路の中だけを流れるように設計されていますが、外傷や経年劣化、あるいは落雷などの異常電圧によって絶縁破壊が起きると、電路から大地へと電気が漏れ出します。この大地に流れる電流を地絡電流と呼びます。

地絡が発生すると、漏れ出た電流が建築物の鉄骨や接地線を伝って流れるため、その経路にある金属部分に触れた人間が深刻な感電負傷を負う危険性があります。さらに、地絡点での局所的な発熱や火花は、周囲の可燃物に引火して重大な火災を引き起こす直接的な原因にもなります。

波及事故のリスクとその深刻さ

高圧系統における地絡事故は、自所の設備を損壊させるだけでなく、電力会社の配電線を共有している近隣のオフィスや工場一帯を巻き込む「波及事故」へと発展するリスクを常に孕んでいます。波及事故とは、一箇所で起きた電気事故の遮断が間に合わず、電力会社側の変電所にある遮断器が先に動作してしまい、同じ配電線から電気を供給されている周辺地域一帯を道連れにして大規模な停電を引き起こす現象を指します。

これにより、周辺の工場の生産ラインが急停止して莫大な損害が発生した場合、事故を起こした需要家は巨額の損害賠償を請求される社会的リスクを負うことになります。そのため、私たち電気主任技術者には、地絡を早期に確実に検出し、事故区間をシステムから極めて高速に、確実に切り離すための深い知識と実務能力が求められるのです。身の引き締まる思いです。

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地絡を検出する機器は何か

地絡保護の核心は、微弱な「漏れ」をいかに正確に捉え、かつ「関係のない事故」をいかに無視するかという、高度な選別機能にあります。これを可能にする前提知識を確認しておきましょう。

零相電圧と零相電流の発生メカニズム

高圧需要家の受変電設備において地絡事故を確実に捉えるためには、まずその発生メカニズムと検出の原理を物理原則に基づいて深く理解しなければなりません。三相交流が健全に送電されている平常時においては、各相の対地電圧および負荷電流は互いに120度の位相差を保ちながら釣り合っているため、それらのベクトル和を計算すると理論上は完全にゼロになります。

しかし、回路内の電線や機器の絶縁が破壊されて一線地絡事故が発生すると、その健全だったバランスが根底から崩れてしまいます。このとき、事故が発生した相の対地電圧はゼロに向かって低下し、逆に地絡を起こしていない残りの健全な二つの相の対地電圧は、平常時の約ルート3倍(線間電圧)にまで跳ね上がります。この三相の対地電圧のアンバランスによって生じるベクトルの歪みこそが零相電圧であり、地絡事故の発生を知らせる第一のサインとなります。

ZPDとZCTによる異常信号の検出

この目に見えない電圧の歪み(零相電圧)を安全かつ正確に検出し、リレーが演算できるレベルの低電圧信号へと変換して伝えるのが零相電圧検出器(ZPD)の役割です。高圧受電設備において、高圧回路から直接大きな電圧を取り出すことは非常に危険を伴うため、ZPDは内部に組み込まれたコンデンサの静電容量分圧を利用することで、一次側の高電圧を二次側の数ボルト程度の安全な電圧へと変圧し、地絡方向継電器へと送り届けます。

これと同時に、地絡点に向かって漏れ出す異常な電流、すなわち零相電流を監視するのが零相変流器(ZCT)です。ZCTは三相の電線をひとまとめに貫通させる構造をしており、平常時は往復する電流の和がゼロであるため磁束が相殺されて二次側には何も出力されませんが、ひとたび地絡が起きると、電路から大地へと漏れ出た電流の分だけ往復のバランスが崩れ、その差分が地絡電流として検出されてリレーに伝送されます。下記の記事も参考になるかと存じます。

ZPDとEVTの違いとは?地絡方向継電器の接続ポイントと現場のトラブル事例解説
はじめに:零相電圧検出装置と現場での重要性高圧受電設備において最も恐れられる事故の一つが地絡事故です。地絡時は接地を経由して大きな電流が流れ、設備損傷や感電リスクを伴います。特にSOG動作での事故は他の需要家設備へも大きく影響するため、高圧…

非接地系統における地絡電流の微弱性

ここで、日本の高圧配電線系統における極めて重要な特徴である非接地方式という運用形態について触れなければなりません。直接接地方式を採用している超高圧の送電線などとは異なり、高圧配電線は中性点を接地しない、あるいは高抵抗で接地するシステムをとっています。これだけ聞くと「で?なんなんだい?」という気持ちになってしまう方もいらっしゃると思います。T係長も初めはそうでした。保護に必要な機器や考え方が変わるので、重要なのです。この記事では、多くの電気設備関係者が関わることになる一般的な「非接地系統」を念頭に解説を進めます。

この非接地系統において一線地絡が起きた場合、大地を流れる地絡電流の大きさは、変圧器の容量ではなく、系統全体に存在する対地静電容量、つまり電線やケーブルが大地との間に持つコンデンサの成分によって決定されます。そのため、短絡事故のように数千アンペアという大電流が流れるわけではなく、実際の地絡電流は一般的な需要家であれば、わずか数百ミリアンペアから数アンペア程度という非常に微弱なものに留まります。このように、事故電流が平常時の負荷電流よりも遥かに小さいため、単に電流の大きさだけを監視していたのでは、それが通常の電気の使用によるものなのか、それとも絶縁破壊による地絡事故なのかを判別することが極めて困難になります。

方向性のない地絡継電器(GR)の盲点ともらい事故

地絡を検出してトリップ信号を出す機器が地絡継電器ですが、方向性のない単なる地絡継電器(GR)には、実務上無視できない大きな盲点が存在します。自分の設備が完全に健全であったとしても、もし隣接する他の需要家や電力会社の配電線で地絡事故が発生した場合、系統全体に「零相電圧」は等しく発生します。そして、その事故によって系統全体に発生した零相電圧の影響を受けて、自所の敷地内にある高圧ケーブルの対地静電容量を介して、微弱な地絡電流が受電点を通って逆流してしまいます。

方向性のないGRは、電流がどこから来てどこへ抜けていくのかを判断できないため、この逆流してきた電流を「自所の地絡事故」と誤認し、受電遮断器を叩いて全域停電を招いてしまいます。これが、実務でも恐れられる「もらい事故」のメカニズムです。T係長の場合、方向性のないGRは使用しないこととしています。大切な設備が他人の設備で巻き添えで停止させられることは、絶対にさけるべきだと考えるからです。

地絡方向継電器(DGR)の使命

この不要な遮断を完璧に防ぎ、自所の本当の事故だけを切り離すために不可欠となるのが、地絡方向継電器(DGR)に備わっている方向判別機能です。DGRは、ZCTから得た零相電流の大きさを測るだけでなく、ZPDから得た零相電圧の波形を「不動の基準」として重ね合わせることで、電流の波形が電圧に対してどれだけの角度を持っているか、すなわち位相差をリアルタイムで高速演算します。

事故が自所の設備内部で起きている場合は、電流は受電点から構内へと向かって順方向に流れるため、位相は特定の進み角の範囲に収まります。逆に、他所の事故によるもらい事故電流である場合は、電流の向きが真逆、つまり位相が180度反転した逆方向の領域に現れます。DGRはこの位相差を厳密に見極めることで、他所の事故ではどれだけ電流が流れたとしても動作せず自設備の事故のときだけ確実に動作し、遮断器へとトリップ信号を送るという、地絡保護の司令塔としての真の使命を果たすことができるのです。


SOGとDGRの役割分担

実務においての地絡保護は、「受電点(PAS付設のSOG)」「盤内の各VCBフィーダ(DGR)」の二段構えになります。これら二つの装置は、それぞれ異なる防衛ラインを担当しており、相互に緻密な連携を保つことで、周辺地域への安定供給構内の安全確保という二つの絶対命題を同時にクリアしています。この両者の機能の違いと協調の必要性を理解することは、保守点検において極めて重要な意味を持ちます。

まず、「外門の番人」として機能するのが、受電点に設置されるSOG制御装置です。PASの近傍や、電気室の受電盤に設置しているパターンなど、色々ありますね。電力会社と需要家の財産および運用の責任分界点には、高圧気中開閉器であるPASが設置されており、これを制御しているのがSOGです。SOGの最大の使命は、自所の設備内部で発生した重大な地絡事故や短絡事故を瞬時に検知し、電力会社の配電用変電所が保護動作を開始するよりも前に、自所の開閉器を開放して系統から完全に切り離すことにあります。万が一、この受電点での切り離しが遅れると、変電所の遮断器が配電線全体の供給をストップさせてしまい、同じ配電線から電気を得ている周辺のオフィスや工場を一網打尽にする波及事故を招いてしまいます。SOGは、需要家が社会に対して負っている波及事故防止という重大な責任を、最前線で死守する要の装置なのです。

ちなみにこの記事では地絡保護のみに焦点を当てますが、SOG = Storage Over Current Ground はそれぞれ 蓄勢過電流、地絡の意味です。過電流からの保護も行えます。「蓄勢過電流」とは、短絡事故時にはPASは一先ずロックして、受電遮断器を開放し、負荷電流が流れなくなってからPASを開放するものです。

これに対して、自分の設備内の秩序を守る「内部の門番」の役割を果たすのが、各VCBフィーダに配置されたDGRです。メインの受電盤VCBの下位側にある各変圧器や高圧大型モータなどの負荷へと分岐していくそれぞれの回路には、地絡方向継電器が個別に設置されることも多いです。もし、ある特定のフィーダで絶縁破壊による地絡事故が発生した際、DGRが設置されていない場合には、いきなり受電点のSOGが動作してしまったらどうなるでしょうか。一つの負荷のトラブルのためにプラント全体が完全にブラックアウトし、事故とは全く関係のない健全な他の系統まで巻き添えで全系停電するという、運用上極めて非効率な事態を招いてしまいます。

こうした最悪のシナリオを回避し、事故の影響を最小限のエリアに留める特性を「事故の局限化」と呼びそます。これこそが、各フィーダのDGRに課せられた真の役割です。地絡が発生した際、事故フィーダのDGRだけが受電点よりも高速に動作し、当該フィーダのVCBだけを引き外します。これにより、事故を起こした回路だけが即座に遮断され、それ以外の健全な系統へは影響全く影響なく、電力が供給され続けます。

このように、地絡保護は、受電点のSOGによる一括防衛と、フィーダDGRによる局所防衛が、時間的・感度的に綺麗に組み合わさることで初めて健全なシステムとして機能します。電気主任技術者にとって、年次点検などでPASの試験を行うのは当然の責務ですが、それと同時に盤内の各フィーダDGRの特性も一括して試験測定し、設計通りの動作時間差や感度の段差、すなわち「保護協調」が完全に成立しているかを実測によって証明することこそが、現場実務における最も重要なプロフェッショナルの仕事となるのです。

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特性試験の実務:精度の証明

試験機(マルチリレー試験機)を接続し、以下の項目を一つずつ測定していきます。

最小動作電流試験

零相電圧(\( V_0\) )を一定にかけます。設定値は一般的な \( \displaystyle\frac{6600}{\sqrt{3}}V(相電圧) の 5%(約190V) の 150% = 285V とします。位相を最大感度角の +30° に合わせた状態で、電流(\( I_0 \))をゼロからゆっくり上げます。設定値の ±1% 以内で動作表示灯が点灯すれば良判定です。一般的な 200mA 設定値とすると、 198~202mA で動作します。

最小動作電圧試験

次は、電流(\( I_0 \))を一定に流します。設定値は一般的な 200mA の 150% = 300mA に保ち、位相を最大感度角の +30° に合わせた状態で、電圧(\( V_0 \))をゼロから上げます。設定値の ±2.5% 以内で動作すれば 良判定 となります。一般的な 190V 設定値とすると 180~200V で動作します。

位相特性試験(ここが最重要!)

零相電圧(285V)を固定します。設定値(200mA)の 1000% = 2A の電流を固定で流します。最初にラグ(遅れ)側を確認します。動作範囲外のラグ80°程度から徐々に小さくして、動作境界点を確認します。標準的には 60°設定の場合、45~75°で動作すれば良判定です。次に、リード(進み)側を確認します。動作範囲外のリード140°程度から徐々に小さくして、動作境界点を確認します。標準的には 120°設定の場合、105~135°で動作すれば良判定です。

T係長が経験したのは、この試験中に「進み」と「遅れ」の判定が逆転していました。その時は、DGRの交換が行われた後の試験でした。ZCTの極性が逆になっている重大な施工ミスが原因でした。停電時間も短い中での作業だったので、間違えてしまったのでしょう。位相が逆になっている場合には、ZCTやDGR、ZPDなどの結線ミスが無いかを確認しましょう。

    動作時間特性試験

    零相電圧($V_0$)を一定にかけます。設定値は一般的な \( \displaystyle\frac{6600}{\sqrt{3}}\)V(相電圧)の5%(約190V)の150% = 285V です。位相はリレーが最も動作しやすい最大感度角の 30°(リード)に固定します。この状態で、設定値に対して、130% と 400% の異なる二つの地絡電流(\( I_0 \))を急激に印加し、リレーが動作するまでの時間を測定します。

    130%電流試験においては、地絡電流を整定値200mAの130%に設定した 260mA として一気に投入します。このときの判定基準は 0.1〜0.3秒 の範囲内であり、この時間内に動作すれば良判定です。続いて、より大きな事故電流を想定した400%電流試験を行います。ここでは地絡電流を整定値の400%に設定した 800mA を一気に投入します。大電流が流れた際の判定基準は、0.1〜0.2秒 の範囲です。この時間内に正しく作動すれば良判定です。より高速動作が求められます。


    まとめ

    受変電設備における地絡保護システムは、目に見えない絶縁破壊の兆候をミリ秒、ミリアンペア単位で鋭敏に捉え、重大なトラブルを未然に防ぐための精緻なネットワークです。一線地絡という非接地系統特有の微弱な異常を正しく識別するためには、本記事で解説した零相電圧(\( V_0 \))と零相電流(\( I_0 \))の物理的な意味、そして位相特性の本質を論理的に理解しておくことが何よりも重要となります。

    現場でのリレー試験は、単に試験成績書の空欄を既定の数値で埋めるためのルーチンワークではありません。設計者が図面上に描いた「保護協調」という静かな理論に、実測という確かな物理データを通じ、動的な命と信頼性を吹き込むことこそが、私たち電気主任技術者に課せられた真の使命です。各フィーダのDGRが持つ「0.1秒」の瞬発力と、受電点SOGの「0.2秒」という確実な段差が、プラント全体の操業、ひいては地域社会の電力を波及事故のリスクから死守する強固な盾となります。

    日々の保安管理や工事監理において、結線一つ、位相の一度一分にまで徹底的にこだわるその姿勢が、設備の安全な運用を支える揺るぎないエビデンスとなります。今回の内容を日々の実務や試験業務にぜひ役立てていただき、プロフェッショナルとしての確かな一歩を積み重ねていきましょう。

    この記事を書いた人
    T係長

    30歳で制御設計の世界に飛び込み、未経験から10年以上にわたり、プラント設備の制御設計・更新・改造案件に携わってきました。これまで100件を超える現場経験を通じて、設計図面から制御盤、シーケンス制御、保護協調まで幅広い電気技術を磨いてきました。
    保有資格は「第二種・第三種電気主任技術者」「第二種電気工事士」「基本情報技術者」。資格の枠にとらわれず、現場で困っている人を助けられる技術者であることを大切にしています。
    このブログ「誠電気設計」では、初心者や若手エンジニアの方にもわかりやすく、実務に役立つ知識を共有しています。学びを通じて、読者とともに成長し続けることを目指しています。

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