はじめに:なぜ絶縁抵抗測定は重要なのか?
電気設備の安全性を確保するために欠かせないのが絶縁抵抗測定です。電路や電気機器の絶縁が劣化すると、漏電や感電事故、さらには火災につながる恐れがあります。そのため、電気保安に関わる技術者は、定期的な絶縁抵抗の測定を行い、異常を早期に発見することが求められます。これは電気主任技術者や工事士だけでなく、設備に関わる全ての人が理解しておくべき基本です。
絶縁抵抗測定は一見すると専門的で難しい作業に感じられますが、手順や基準を押さえれば誰でも正しく実施できます。特に工場やビルの受配電設備、モーターや変圧器などの主要機器では、絶縁劣化が直接稼働停止に直結します。電気事故は一瞬で生産ラインを止め、多大な損失を生じるため、予防保全の観点からも測定は極めて重要といえます。
また、絶縁抵抗測定は単なる「点検作業」ではなく、電気の健全性を数値で確認できる唯一の方法です。目視点検や外観確認では分からない内部の劣化状態を把握できるため、設備保全の基本として位置づけられています。この記事では、絶縁抵抗計の仕組みや測定方法、対象別のポイントまで徹底的に解説します。
絶縁抵抗計(メガー)とは?
絶縁抵抗計、通称メガーは、電路や機器の絶縁状態を確認するための測定器です。一般的なテスターと異なり、内部で直流の高電圧を発生させ、電路に印加して微小な漏れ電流を測定します。この漏れ電流から抵抗値を算出し、絶縁が良好かどうかを判断する仕組みです。測定単位は MΩ (メガオーム もしくは メグオーム)が用いられます。
メガーにはアナログ式とデジタル式があり、アナログ式は針の振れで直感的に判定でき、デジタル式は数値で正確に読み取れる特徴があります。近年はデジタル式が主流ですが、アナログ式は現場での変化傾向を確認しやすいため、両者を使い分ける技術者も多いです。測定対象や現場の条件に応じて適切な機種を選定することが大切です。
また、絶縁抵抗計の測定には印加電圧が設定されています。一般的な低圧設備ではDC500Vの絶縁抵抗計が使用され、300V以下で対地電圧150V以下の場合には0.1MΩ以上、その他は0.2MΩ以上、300Vを超える場合には0.4MΩ以上であれば、「良」判定となります。一方の高圧・特高設備ではDC1000Vが用いられます。
補足:絶縁抵抗測定と耐圧試験は何が違うの?
電気設備の安全性を確認する上で、「絶縁抵抗測定」と「耐圧試験」はどちらも欠かせない試験ですが、その目的、方法、そして判定基準は大きく異なります。初心者が混同しやすいこの二つの試験について、その違いを分かりやすく解説します。
絶縁抵抗測定とは?
上述のように絶縁抵抗測定は、その名の通り、電路と大地の間や電路と電路の間の抵抗値を測定するものです。電気設備の絶縁体が劣化すると、この抵抗値が低下し、電流が漏れやすくなります。この漏れた電流が、感電や火災の原因となるのです。絶縁抵抗測定では、絶縁抵抗計(メガー)を用いて、直流の電圧を印加し、その際の抵抗値を測定します。測定値が先ほどの基準をクリアしているかを確認することで、設備の絶縁状態が健全であるかを判断します。これは、設備を実際に運用する中で、定期的に行う日常的なチェックと捉えることができます。
耐圧試験とは?
耐圧試験は、設備の絶縁が破壊されないかを確認する破壊試験の一種です。これは、通常の運転時では想定されないような異常な電圧サージ(瞬時的な高電圧)や、長期間にわたる電圧負荷に対して、設備が十分に耐えられるかを検証するために行われます。設備の新設時や更新時に行います。
この試験は、新設の設備や修理後の設備に対して、電気設備技術基準に基づいて実施されます。例えば7,000V以下の電路や機器では、最大使用電圧の1.5倍の電圧を10分間印加しても絶縁が破壊されないことが求められています。この辺りは電験3種の基本ですので、解説は割愛させてください。またいずれどこかで。
具体的な例として、6.6kVの高圧ケーブルを考えてみましょう。このケーブルの最大使用電圧は、公称電圧6.6kVの1.15倍を1.1で割った値、つまり6.9kVと計算されます。この6.9kVの1.5倍に当たる10.35kVという商用周波数の高電圧を、10分間以上印加し、絶縁破壊が起きないことを確認します(直流で行う場合は上記試験電圧の2倍を印加します)。この試験は、絶縁抵抗測定よりも高い電圧を印加します。
| 項目 | 絶縁抵抗測定 | 耐圧試験 |
| 目的 | 絶縁体の抵抗値の健全性を日常的に確認する | 高電圧に耐えうるかを確認する(絶縁破壊の有無) |
| 印加電圧 | 比較的低い電圧(例:500V、1000V) | 非常に高い電圧(最大使用電圧の1.5倍など) |
| 試験時間 | 数秒〜数十秒 | 10分間以上 |
| 判定基準 | 測定した抵抗値が規定値を上回るか | 規定時間内に絶縁破壊が発生しないか |
| 実施時期 | 竣工時、定期点検時、日常点検時 | 竣工時、更新改造後など |
絶縁抵抗測定の正しいやり方と注意点
絶縁抵抗測定を行う際は、まず測定対象の電源を必ず遮断することが基本です。通電中に測定を行うと、感電や機器損傷の重大な事故につながります。遮断後も機器内部には電荷が残留している場合があるため、放電棒の使用、短絡接地器具の設置など、放電処理を確実に実施することが重要です。特にコンデンサやケーブルの静電容量による残留電荷には注意が必要です。「遮断器を切ったから安全」は電気の素人の考え方です。
次に、使用する絶縁抵抗計の電圧レンジを確認します。低圧機器であれば500V、高圧機器であれば規定の試験電圧を使用することが一般的です。誤った電圧を選択すると、正確な測定ができないだけでなく、機器破損の原因にもなります。必ず対象機器の定格電圧や関連基準を確認してから設定しましょう。基本的な測定方法は、下記のとおりです。
1.電圧が印加されていないことを確認する。
2.測定電圧を決める(ロータリースイッチが多い)。
3.E端子(黒色の測定リード)を接地側に接続する。
4.L端子(赤色の測定リード)を電路側に接続する。
5.電圧を印加し、測定する。
6.赤色リードを接続した状態で、電圧印加を止める。
7.放電終了したら赤色リードを外す。
分電盤や機器では、負荷側の端子とアースを対象に測定します。測定ボタンを押すと内部で高電圧が発生し、表示に抵抗値が出ます。この値を基準と比較して判定します。測定後は、必ず測定対象を短絡して残留電荷を放電し、感電事故を防止することが大切です。
PV(太陽光発電)専用の絶縁抵抗測定器が必要な理由
太陽光発電システム(PV)の普及に伴い、その維持管理において絶縁抵抗測定の重要性が増しています。しかし、一般的な絶縁抵抗計では不十分な場合があり、我らがHIOKI製でもPV専用ファンクションを搭載するの絶縁抵抗計が販売されています。少し横道に逸れてしまいますが、ここでは、その主な理由を一般的な測定器と比較しながら解説します。
測定対象の特性:高電圧と微弱電流
一般的な電気設備では、絶縁抵抗測定は主に交流電源から切り離された状態で実施されます。一方、太陽光発電システムは、太陽が当たっている限り常に直流の電圧を発生させています。このため、測定時には、PVモジュールやストリングから発生する高電圧(最大DC1000V以上)が、測定器に逆流する危険性があります。
従来の絶縁抵抗計は、このような直流高電圧が印加されることを想定して設計されていないことが多く、測定器の故障や、最悪の場合、測定者への感電事故につながる可能性がありました。PV専用の測定器は、この直流高電圧に対応し、安全に測定できるように設計されています。
また、PVシステムの絶縁劣化は、通常の電気設備に比べて非常に微弱な漏洩電流として現れることがあります。一般的な測定器では、この微弱な電流を正確に測定・評価することが難しいため、わずかな絶縁不良を見逃してしまうリスクがあります。
アース(接地)の考え方の違い
一般的な電気設備では、電路と大地(アース)間の絶縁抵抗を測定することが基本です。しかし、直流の太陽光発電システムは、その設置環境や構成により、必ずしも単一のアース点を有しているわけではありません。特に、屋根上や広大な敷地に設置されたPVシステムでは、モジュール間やストリング間の電位差が複雑に絡み合い、単純な「電路-アース」の測定では正しい絶縁状態を把握しきれない場合があります。
PV専用の測定器には、このようなシステムの複雑な構成に対応するため、プラスとマイナスの両極を同時に測定する機能や、接地されていない状態でも測定できる機能が備わっています。これにより、システム全体の絶縁状態をより正確かつ包括的に診断することが可能となります。
測定時の影響:外乱ノイズと電荷の蓄積
PVシステムは、インバータやパワーコンディショナ(PCS)など、多くの電子機器を含むため、高周波ノイズが発生しやすい環境にあります。このノイズが、一般的な絶縁抵抗計の測定値に影響を与え、誤った測定結果となってしまうことがあります。PV専用の測定器は、このような外乱ノイズをフィルタリングする機能を搭載しているため、より安定した正確な測定が可能です。
さらに、PVモジュールはコンデンサを抱いているため、充電された電荷が蓄積されています。一般的な測定器で電圧を印加すると、この蓄積された電荷が測定値に影響を及ぼし、正確な絶縁抵抗値を測定できないことがあります。PV専用の測定器は、この蓄積電荷を考慮した測定アルゴリズムや、放電機能を有しているため、安定した測定結果を得ることができます。
測定対象別!具体的な接続方法とポイント
高圧ケーブル
高圧ケーブルの絶縁抵抗測定は、ケーブルの芯線とシールド間の絶縁状態を確認するために行われます。この測定は、直流の高電圧を印加して抵抗値を測ることで、絶縁体の劣化や損傷を把握する目的があります。
高圧ケーブルには、絶縁抵抗計のL端子を高圧ケーブルの芯線(三相一括にすることもあります)に接続し、E端子はケーブルのシールド(通常接地導体)に接続します。これにより、芯線から大地への漏電がないかを確認します。この際、測定対象以外の芯線は、E端子と同じくアースに接続しておくことで、より正確な測定ができます。
ちなみに、高圧用の絶縁抵抗計は「G端子」があります。これは、端末部表面の汚損などによる測定誤差を防止するためにケーブル端末に取り付けられるガード電極に接続されます。また、ケーブルの種類や使用環境に応じて、適切な電圧の絶縁抵抗計を選定しましょう。
変圧器
変圧器の絶縁抵抗測定は、巻線の絶縁状態を診断し、劣化や損傷による内部短絡や地絡を未然に防ぐために重要です。この測定は、直流の高電圧を印加して抵抗値を測ることで行われます。変圧器の絶縁抵抗を測る際は、主に3つの箇所を測定します。
まず「高圧巻線-低圧巻線間」の測定では、絶縁抵抗計のL端子を高圧巻線に接続し、E端子を低圧巻線に接続します。これは、高圧巻線と低圧巻線の間の絶縁状態を確認するためのものです。次に「高圧巻線-鉄心(ケース)間」の測定では、L端子を高圧巻線に、E端子を変圧器の鉄心(ケース)に接続します。これにより、高圧巻線から鉄心への漏電がないかを確認します。最後に「低圧巻線-鉄心(ケース)間」の測定では、L端子を低圧巻線に、E端子を変圧器の鉄心(ケース)に接続します。この測定は、低圧巻線から鉄心への漏電がないかを確認するために行います。
これらの測定を行う前には、必ず変圧器の一次側、二次側共に遮断器を開放し、短絡接地器具を用いて残留電荷を放電させることが不可欠です。補足になりますが、絶縁油を使用する変圧器の場合は、油の劣化も絶縁抵抗に影響するため、定期的な油の分析も重要となります。
電動機(モータ)
電動機の絶縁抵抗測定は、モータの巻線と外側のフレーム(筐体)の間の絶縁状態を診断するために行います。この測定は、絶縁不良による漏電や感電、最悪の場合のショート事故を未然に防ぐために不可欠です。直流の高電圧を印加して抵抗値を測定することで、絶縁体の劣化や損傷を把握できます。電動機の絶縁抵抗を測る際は、主に以下の手順で行います。
まず、測定を行う前には、必ず電動機の電源を切り、端子に残留電荷が残っていないかを確認し、安全に作業できる状態にします。次に、絶縁抵抗計のL端子を電動機の巻線端子(U、V、W)に接続します。E端子は、電動機のフレームや筐体にしっかりと接続します。これは、巻線と大地(フレームを介して)間の絶縁状態を確認するための最も基本的な測定方法です。さらに、三相誘導電動機などの場合、巻線間の絶縁状態も測定することがあります。この場合は、L端子とE端子をそれぞれ異なる巻線端子(例:U相とV相)に接続し、抵抗値を測定します。
開閉器・遮断器
開閉器や遮断器の絶縁抵抗測定は、これらの機器の通電部分と非通電部分、および相間の絶縁状態を確認し、安全な運用を確保するために行います。開閉器や遮断器と対地間の絶縁抵抗を測る際は、まず機器の電源を切り、残留電荷がないことを確認します。そして、絶縁抵抗計のL端子を、開閉器や遮断器の電源側もしくは負荷側の通電端子に接続します。E端子は、機器のフレーム、アース端子、または接地されている金属部分に確実に接続します。この測定は、通電部分から大地への漏電がないかを確認する最も基本的な方法です。さらに、三相の開閉器や遮断器の場合には、相間の絶縁抵抗も測定します。この測定では、L端子とE端子を、それぞれ異なる相の端子に接続し、すべての組み合わせ(例:R相-S相、S相-T相、T相-R相)で測定を行います。これにより、相間の絶縁不良がないかを確認します。
まとめ
絶縁抵抗測定は、電気設備を安全に保つための基本中の基本です。単なる点検ではなく、漏電や感電、火災といった重大な事故を未然に防ぎ、設備の健全性を数値で確認できる唯一の方法だということを理解しておきましょう。高圧ケーブルや変圧器、電動機といった個々の機器だけでなく、太陽光発電システムのように特殊な特性を持つ設備には、それぞれの特性に応じた専用の測定器を用いることが、より正確で安全な診断につながります。
また、測定を行う際には、電源の遮断や残留電荷の放電といった基本的な安全手順を徹底することが何よりも重要です。誤った電圧設定や不適切な接続は、正確な測定ができないだけでなく、機器の損傷や思わぬ事故を招く可能性があります。正しい知識と手順を身につけ、日々の点検に臨むことで、電気設備の寿命を延ばし、安全性を維持することができます。
絶縁抵抗測定は、電気に携わるすべての技術者にとって、安全な未来を守るための第一歩です。この記事で解説した内容を参考に、あなたの現場でも定期的な測定を習慣化し、電気設備の健康診断を欠かさず行ってください。

