変圧器の励磁突入電流とは?
励磁突入電流(現場では『励突』と呼ばれます)とは、変圧器に電源を投入した瞬間に流れる大きな電流です。おおむね0.2sec程度で減衰しますが、瞬間的に定格電流の10~20倍近くに達することもあります。この現象は、通電直後に鉄心が磁気飽和状態に陥ることが原因です。飽和状態の鉄心はインダクタンスがほぼゼロになるため、上述のような大きな電流が制限されずに流れ込むのです。
とは言え、変圧器への電源投入時に毎回大きな電流が流れてしまうわけではありません。電源投入時に残留磁束と位相のずれがある場合に、大きな励磁突入電流が流れます。電源投入時の現象ですが、実は「無負荷で電源開放」された後、次の電源投入時に大きな励磁突入電流が流れやすいことが知られています。
変圧器特有の現象として注目される理由
モータやコイルにも突入電流はもちろんありますが、それらはせいぜい6~8倍程度です。一方の変圧器の励磁突入突入電流の最大値は上述の通り10~20倍と非常に大きくなります。実際には、鉄心の大きさや材質、残留磁束などにも影響されるため、予測は非常に難しいです。しかし、その影響は過電流継電器のトリップや電力用ヒューズの溶断など、一つ間違えば大きな問題となってしまいます。そこで、変圧器を扱う上で、励磁突入電流は設計・保守の両面で重要なファクターとされているのです。
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励磁突入電流が設備に与える影響とは?
電圧降下・系統不安定化のリスク
大電流が一時的に流れることで、供給系統の電圧が一時的に降下します。例えば、6.6kV高圧受変電設備(3φ300kVAと1φ50kVA)を有する需要家を考えて見ましょう。下記の用に想定します。経験則ですが、単相トランスの方が励磁突入電流が大きくなりやすいです。
- 3φ300kVA:定格電流 12.7 A
→最大励磁突入電流 190 A (15倍想定) - 1φ50kVA:定格電流 7.5 A
→最大励磁突入電流 152 A (20倍想定)
殆どあり得ないことですが、上記の最大励磁突入電流が同時に流れるとすると、342 A が送電系統に流れます。この時、配電線のインピーダンスが仮に 2 Ω だった場合、 ΔV = 342 × 2 = 684 [V] の電圧降下が生じることになります。これは 6600V の 10% 以上となってしまうため、大問題です。通常、コンピュータなどの電子機器は 10% の電圧低下が生じると正常に動作しません。また、発電機側でも大きな電圧変動がある場合に、電力系統側で切り離しが実施される場合もあります。
また、自家発設備を保有しており、非常用電源側へ切替えを行う際には、さらに注意が必要です。自家発電圧が確立後、電源を切り替えた際に、過大な励磁突入電流が流れてしまい、大きな電圧降下が発生し、発電機側の遮断器(VCB)がトリップしてしまうことがあります。発電機容量に対して、変圧器が大きすぎることが原因です。
受電遮断器(VCB)や保護継電器(51)の誤動作
需要家構内では、保護継電器(51)の整定値を誤って設定した場合、励磁突入電流を過電流と判断し、受電遮断器(VCB)をトリップさせてしまう事例は、枚挙にいとまがありません。また、300kVA以下の受電用変圧器の場合には、遮断器を用いず、高圧カットアウトヒューズで保護を図ることもありますが、この際、ヒューズ選定を誤り、励磁突入電流でヒューズが溶断される事例もあります。電気主任技術者としてはこれらは絶対に避けなければならない事態と言えるでしょう。
励磁突入電流の対策方法 3選
1. エネセーバを変圧器一次側に設置する
三菱電機より販売されている「エネセーバ」が励磁突入電流対策としては特に有効です。通電初期に直列抵抗を挿入した回路へ接続し、励磁突入電流を一時的に抑えます。一定時間が経過し、励磁突入電流が減衰後に抵抗をバイパスする回路に切り替える通常の運用を行います。電力系統への悪影響も抑えられると同時に、不使用時には変圧器一次側を開放することが制御により可能なため、省エネ効果も高いです。
※変圧器は負荷をつないでいなくても、一次側に電圧が印加されていれば「無負荷損」という形でエネルギーを消費し続けます。

2. 励磁突入電流によるトリップを回避する制御を行う
電源投入後の数秒間は過電流によるトリップを回避する制御回路を構築することも対策の一つです。オンディレータイマを利用して、励磁突入電流が減衰するまでの0.2sec程度経過後から過電流継電器によるトリップを遅らせましょう。注意しなければならないのは、「常に」タイマを入れるのではなく、「変圧器一次側の投入時のみ」タイマを入れることです。通常の過電流は限時もしくは瞬時に従って遮断しなければなりません。また、複数の変圧器が並列に設置されている場合には、タイマを用いて順次投入となる回路を構築する方法も有効です。
3. ソフトスタート方式による励磁突入電流の緩和
自家発電装置と接続する場合のことになりますが、変圧器までの電路を全て繋いだ状態で、変圧器に電圧を徐々に印加するソフトスタート方式は、励磁突入電流を効果的に抑制することが可能です。特に、2 000 kVA 以上の大容量の受電変圧器では採用する価値があります。自家発電設備が変圧器の投入による電圧降下に影響を受けない大きければ特に気にする必要性はありませんが。
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設計段階で意識したい!励磁突入電対策のポイント
変圧器の仕様確認(突入電流倍率、飽和特性)
カタログもしくは納入仕様書に記載された励磁突入電流倍率を必ず確認しておきましょう。たとえ、過去に同じ容量の変圧器を入れたことがあったとしても、鉄心の材質や巻線仕様により励磁突入電流は大きく異なります。特に、2014年以降はトップランナー変圧器を使用することが義務付けられており、励磁突入電流は大きくなりがちですので、注意が必要です。
励磁突入電流で動作しない保護継電器の整定とヒューズの最小溶断曲線が励磁突入電流に引っかからないようにヒューズの選定を行いましょう。なお、変圧器が並列に設置されている場合には、各変圧器の励磁突入電流の総和ではなく、最大の励磁突入電流について考慮すれば良いでしょう。経験則となりますが、複数変圧器で同時に最大レベルの励磁突入電流が流れることは非常に考えにくいからです。
また、単純に総和で考慮して保護継電器の整定と行うと、上位側の電力系統との協調が取れなくなってしまう上、ヒューズが大きくなりすぎて、逆に小電流短絡の遮断不能領域が生まれてしまい、保護上の問題が発生します。「大は小を兼ねる」とよく言いますが、電気においてはそうならない場合が大ことにわれわれエンジニアは注意しなければなりません。
系統遮断容量を考慮する
通常、高圧設備を設計する場合には遮断容量 12.5 kA (160MVA) を意識して設計していますが、実際の遮断容量はこれよりも小さい場合があります。遮断容量が小さいということは、系統のインピーダンスが大きいということです。系統のインピーダンスが大きいということは、励磁突入電流による電圧降下の影響が大きいということです。
上記のような場合に、電力会社との協議によって、需要家側で何らかの対策を行うことを求められることになるでしょう。1台で100万円以上しますが、エネセーバを導入するのが最も効果的な対策です。また、小規模発電機との接続時にも、同様にこの点を重視する必要があります。
まとめ
変圧器の励磁突入電流は、電源投入時に発生する一時的な大電流で、定格電流の10~20倍に達することもあります。これは鉄心の磁気飽和が原因で、設備トラブルや誤動作の要因となります。需要家側の対策としては「エネセーバの導入」や「ソフトスタート方式」などが効果的です。設計時には系統条件の考慮と合わせて、正しい保護継電器の整定、機器の選定が欠かせません。受変電設備は、プラント運用の根幹です。エンジニアとしては失敗の許されない領域です。正しい知識を身につけましょう。

