はじめに:ブレーカは「ただのスイッチ」ではない
ブレーカは単なる電気のオン・オフ装置ではなく、設備を守る「守護神」です。過負荷や短絡といった異常から回路を守ることで、電気設備の安全と安定運用を支えています。三菱電機のブレーカは、様々な種類があり、用途に応じて最適な保護を実現しています。正しい選定ができなければ、思わぬところで不要動作をしてしまい、設備保護が図れません。本記事では、三菱電機の代表的なブレーカを取り上げ、その特性と選定のポイントをわかりやすく解説していきます。この記事を読めば、どのようにブレーカを選定すれば良いか、電気設計者として基本的な判断をすることが可能になります。
汎用型ブレーカ:電気設備の「万能選手」
三菱電機のNF-Sシリーズは、幅広い用途で使える万能型のブレーカです。一般照明回路から小型モーターの保護まで、数多くの現場で活躍しています。その最大の強みは、高い汎用性と信頼性にあり、定格電流や遮断容量のラインナップも豊富(3AT~1660AT、7.5kA~125kA at AC230V)で、さまざまな規模の設備に対応できます。また、より遮断容量はちいさくなりますが、より安価なNF経済品のNF-Cシリーズもあります。詳細はカタログなどで確認する必要がありますが、定格電流の10倍の電流が流れると0.2sec以内で動作します。同容量の富士電機製ブレーカだと定格電流の8倍の電流が流れると0.2sec以内の動作です。
とはいえ、この「万能選手」にも限界があります。例えば、変圧器ではブレーカを入れる際に、励磁突入電流という定格電流の10~30倍にもなる大きな電流が流れます。定格電流で安易にブレーカを選んでしまうと、上述のようにブレーカを入れた直後にトリップしてしまう事象が発生します。もちろんブレーカトリップ値を上げるというのも一つの手段ですが、逆に保護が利かなくなってしまうなど、不具合が生じます。適切な保護を実現するためにも、様々なブレーカの特性を知り、あなたの負荷に適したものを選定しなければなりません。
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特殊用途ブレーカの活用:保護協調曲線が鍵を握る
ブレーカの違いを理解するうえで欠かせないのが「保護協調曲線」です。これは、過電流に対してブレーカがどのタイミングで動作するかを示すグラフであり、特に「瞬時動作領域」の設定がシリーズごとの性能を決定づけます。例えば、あるブレーカは小さな突入電流でもすぐ遮断するのに対し、別のブレーカは一定時間耐えてから動作します。この差を理解してこそ電気エンジニア、受変電設備設計者です。遮断容量の数値だけでなく、保護協調曲線を理解することで、なぜ用途ごとに異なるブレーカが必要なのかを直感的に理解できるようになります。
用途別ブレーカの選び方
いよいよ具体的な用途別シリーズの解説に入ります。三菱電機のブレーカは、変圧器用・電動機用・中性線欠相保護用といった用途別のモデルが用意されており、それぞれが現場の課題を解決するために独自の特性を持っています。以下では代表的なシリーズを取り上げ、それぞれの役割を解説していきましょう。
変圧器一次用高インストブレーカ
変圧器は投入時に励磁突入電流が発生し、定格の数十倍から三十倍に達することがあります。通常の汎用ブレーカではこれを異常と判断し、不必要にトリップしてしまうリスクがあります。変圧器一次用高インストブレーカは、瞬時動作領域を広めに設計し、突入電流による不要なトリップを防止します。例えば、NF-Cの汎用型は定格電流の10倍で0.2secの動作ですが、変圧器一次用高インストブレーカは、定格電流の18倍で0.2secの動作となります。これにより、停復電動作時の変圧器の正常運転を維持しながら、短絡事故などの異常時には確実に遮断する動作を実現することができます。
電動機保護用ブレーカ(モータブレーカ)
電動機は始動時に大きな突入電流を流しますが、これは正常動作に不可欠な現象です。電動機保護用ブレーカは、この始動電流では動作せず、過負荷や短絡時のみ遮断するように調整されています。保護協調曲線を見ると、電動機保護用ブレーカは始動電流に耐える独特のカーブを描き、電動機の健全な立ち上がりを保証します。例えば、NF-Cの汎用型は定格電流の10倍で0.2secの動作ですが、電動機保護用ブレーカであれば、定格電流の10倍で0.5secの動作となります。一般的な始動電流のピークはそれほど長く続かないので、上手くトリップせずに始動が可能になりますが、フライホイール付の大容量電動機だと、始動時間が長くなりがちなので、注意が必要です。「電動機用ブレーカにしたから安心」という訳ではありません。電動機メーカから、始動時間と電流値の特性に関する資料を入手し、保護協調曲線に落とし込んで確認をしましょう。
中性線欠相保護用ブレーカ
三相四線式や単相三線式回路で中性線が欠相すると、線間電圧に大きな不均衡が生じます。一般的な210-105V回路であれば、一方に200Vの電圧が印加されるようなことになってしまいます。これにより、照明やコンピュータなどの機器が破損する危険性があります。中性線欠相保護用ブレーカは、この異常を検知して回路を遮断する特殊な保護機能を備えています。通常の遮断容量や瞬時動作領域とは異なるアプローチで、電圧変動から敏感な機器を守ることができます。なお、中性線欠相保護は法律にもとづく義務となっています。内線規程1360-3-3、1375-2-5に基づきます。
内線規程1360-3-3(要約)
単相三線式電路に施設する配線用遮断器は、中性線欠相保護機能付きのものとすること。
内線規程1375-2-5(要約)
単相3線式電路に施設する漏電遮断器は、中性線欠相保護機能付きのものとすること
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まとめ:安全な設備運用のためのブレーカ選定
電気設備を守る「守護神」であるブレーカは、単なるオンオフ装置ではありません。三菱電機のブレーカは、汎用型から特殊用途まで多岐にわたります。適切なブレーカを選ぶには、カタログの遮断容量だけでなく、保護協調曲線を理解することが不可欠です。この曲線が示す瞬時動作領域の違いが、変圧器の励磁突入電流や電動機の始動電流といった、正常な動作中の大きな電流を異常と判断せず、確実に保護すべき短絡事故を遮断する鍵となります。特に、中性線欠相保護用ブレーカは、内線規程でその設置が義務付けられており、機器を電圧不均衡から守る重要な役割を担っています。適切なブレーカを選定することで、設備の安全と安定稼働が実現します。

