はじめに
私たちプラントの電気設備を設計・管理するエンジニアにとって、単相3線式回路の運用は利便性が高い一方で、中性線の欠相という極めて重大なリスクと隣り合わせであることを忘れてはなりません。中性線が断線または接触不良を起こすと、100V回路の負荷バランスに応じて電圧が不均衡となり、最悪の場合にはプラント内の精密機器や制御盤内の電気機器に致命的な過電圧が加わります。こうした事故を防ぐため、分電盤の主幹には中性線欠相保護機能を持つ遮断器の設置が欠かせません。
基本的な選定においては、一般的な住宅や事務所レベルの容量であれば、中性線欠相保護付ブレーカで対応可能ですが私たちの関わるプラント特有の大電流回路では製品の選択肢が限られてくるという壁に直面します。中性線欠相保護付ブレーカは630AFまでの展開となっており、これを超える電流値の主幹回路では対応できません。
本記事では、プラントの分電盤設計において中性線欠相保護をどこに配置すべきかという配置基準から、大容量回路における具体的な機器構成、さらには単三回路と単二回路が混在する系統での電流計算の注意点までを詳しく解説します。現場の安全性を担保し、不測の事態から大切なプラントを守るための実務的なガイドとして、本記事を皆様に役立てていただければ幸いです。
中性線欠相保護の基礎知識と義務化の背景


単相3線式回路において、中性線が断線または接触不良を起こす欠相現象は、電気設備にとって最も警戒すべきトラブルの一つです。中性線が役割を果たせなくなると、100Vの負荷同士が200Vに対して直列につながる形となり、それぞれの機器の抵抗値に応じて電圧が分圧されます。この結果、消費電力の小さい機器側の電圧が異常に上昇し、100V仕様の電気機器に150V以上の過電圧が加わることで、基板の焼損や火災を引き起こします。
こうした背景から、1990年に内線規程では住宅用分電盤や特定の電路において、中性線欠相保護機能を持つ遮断器の設置が推奨となり、1992年に原則義務化、1995年に内線規程(1360-3-3、1375-2-5)完全義務化となりました。私たち電気設備設計者にとって、内線規程は必ず手元に置いておかなければならないものです。まだお持ちでない方は、下記のリンクよりお求めになることをお勧めいたします。
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三菱電機製機器で見る「中性線欠相保護付ブレーカ」とは?
基本的な検知原理は、ブレーカ内部に搭載された電子基板による電圧監視です。本体から伸びている白い「過電圧検出リード線」を分電盤の中性線端子に接続することで、この線がセンサーとして機能し、中性線と各電圧線間の電位差を常に読み取ります。電圧が一般的に135V程度を超える異常値を記録すると、内部の電子回路が即座に判断を下し、トリップコイルを動作させて強制的に遮断を行います。
接続方法における最大の注意点は、本体から出ている白いリード線の取り扱いです。主幹ブレーカとして設置する際、リード線は必ず負荷の末端部に確実に接続しなければなりません。もしこの線の接続を忘れたり、接触不良を起こしたりすると、肝心の保護機能が一切作動しなくなります。リード線は通常 2m 品ですが、適宜リングスリーブや中継端子台などを用いて延長することは可能です。

設計実務において、まず検討すべきは遮断器の定格容量に応じた型式の選定です。三菱電機のラインナップでは、630Aまでの容量であれば、中性線欠相保護機能を標準で内蔵した配線用遮断器もしくは漏電遮断器が用意されており、これを選択するのが最も一般的です。例えば250AFでは「NF250-NCV」、400AFでは「NF400-NCW」、630Aでは「NF630-NCW」が該当し、これらは単三用の保護回路を搭載した一体型製品です。また、漏電遮断器も兼ねるのであれば「NV□□-NCV」シリーズを選定します。これらの製品には、中性線の電位を監視するためのリード線が付属しており、これを中性線端子に正しく接続することで、電子回路による常時監視が可能になります。
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大容量回路(630A超)における特殊設計
中性線欠相保護付ブレーカを使用すれば、OKなのですが、630Aのような超大型の回路ではそうはいきません。というのも、630Aを超えるトリップ値では三菱電機の既製品ラインナップに中性線欠相保護付ブレーカが存在しないからです。このような場合には基本的に2つの対応策があります。
第一に、そもそもの系統構成を見直すことです。例えば、下図のように150kVAのトランスを用いているものを、75kVAの単三トランス2台に見直す場合です。もともとは、150kVA変圧器二次側の定格電流は 約715A でしたが、75kVA変圧器二次側の定格電流は 360A です。これならば、標準品で対応が可能です。

第二に、中性線欠相保護のシステムと同様の回路を自前で構築することです。中性線欠相保護の原理は、詰まるところ「過電圧」の検出です。R-O相とT-O相にそれぞれ過電圧継電器を設置し、過電圧検出でブレーカをトリップさせる方法です。ブレーカには電圧引き外し装置(SHT)を指定します。そして、オムロンのSDVシリーズ(ボルティジ・センサ)x2個 の出力接点を用いて、ブレーカをトリップさせるのが省スペースに実現できる方法です。

上述第二の方法でも、SDVの動作時間 0.5sec + RY動作時間 0.02sec + 電圧引き外し装置動作時間 0.02sec により、動作時間 0.9sec 程度となり、通常中性線欠相保護付ブレーカの動作が 1.0sec 以内 であるのとほぼ同様です。SDV動作は周囲の温度や環境で動作時間が延びる可能性もあるので若干の注意が必要ですが、特殊環境などでない限り、問題は無いと言えるでしょう。
しかし、使用する電気機器の点数が増えることで、故障の可能性があるものが増えることは間違いないので、T係長としては系統の見直しをまず最初に提案します。
親盤と子盤の階層構造における保護範囲の考え方

分電盤が連なる多段構成のシステムを設計する場合、どの地点に中性線欠相保護付ブレーカを置くかが重要になります。例えば、上図のように親盤が単相3線式で、その下流に単相2線式の分電盤を配置する場合、下位の単2盤には欠相保護付ブレーカを設置する必要はありません。単2回路は線が2本しかないため、欠相が起きても電気が止まるだけで過電圧は発生しないからです。したがって、下位盤には標準的なブレーカを選定し、上位の単3盤にのみ保護機能を集中させるのが合理的な設計です。

一方、上図のように、親盤から離れた場所(別の建屋、別の階など)に別の単三分電盤を設置する場合は、送り配線の断線リスクを考慮し、親盤にも、子盤にも主幹にも中性線欠相保護付ブレーカを設けることが、内線規程)の趣旨に則った安全な構成と言えます。
仮に次の図のような構成とした場合には、欠相保護が出来ていない部分が出来てしまうという点にも注意しましょう。非常用発電から電源を供給する場合には、欠相保護が無くなってしまいます。保護の死角ができないように単線結線図作成時には細心の注意を払う必要性があります。非常用電源と商用電源とを電源切替器を用いて使い分ける場合に、ミスが発生しやすいです。電源切替器二次側の主幹に中性線欠相保護付ブレーカを設けるのが良いでしょう。
もしくは、「低圧分岐母線には実質的に負荷が無く、堅牢な制御盤に納められ、ブスバーと呼ばれる導体で接続されており、欠相の危険性がほぼ皆無であることから保護不要」と解釈し、ブレーカ送り先の分電盤側などで欠相保護を行うのも手段の一つです。

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間違えやすい単三トランスの定格電流と負荷バランシングの実践
最後に、50kVAトランスを運用する場合を例にして、電流計算の重要性について述べます。まず、単三トランス二次側の定格電流は
\( 50 \times 1000 \div 210 = 238 \) A です。
よく見る間違いとして、100Vで割ってしまうことです。単相三線式はあくまでもバランスよく使用して中性線が 0A となるような運用が基本です。そして、この負荷バランスが崩れた時に注意が必要なのです。たとえ合計の負荷容量がトランスの枠内に収まっていても、各相の使い方が偏ると過負荷を招きます。
例えば、40kW の 210V 負荷に加えて、10kW の 105V 負荷を片方の相だけに接続した場合を考えて見ます。この時、下記の電流が流れます。
\( 40 \times 1000 \div 210 = 190 \) A
\( 10 \times 1000 \div 105 = 95 \) A
合計で約 285A もの電流が流れます。これは変圧器二次定格 238A を大幅に超過する値です。しかし、105V 負荷を 5kW x2 としてバランス良く接続すると、中性線の電流は打ち消しあい 約238A が流れます。こうして、変圧器の能力を最大限かつ安全に使い切ることができます。つまり、中性線に流れる電流を極力抑えるように負荷を振り分けることは、ブレーカの不必要なトリップを防ぎ、設備全体の信頼性を高めるために不可欠な作業なのです。
おわりに
本記事では、プラント電気設備の設計において極めて重要な「中性線欠相保護」について、その基礎から実務的な応用までを解説してきました。単相三線式という便利な配線方式を安全に運用するためには、内線規程に基づいた正しい知識と、現場の状況に合わせた適切な機器選定が欠かせません。
特にプラント特有の大電流回路においては、三菱電機の既製品ラインナップにある600AFという壁をどう乗り越えるかがエンジニアの腕の見せ所です。トランスの系統を分割して標準品を適用するのか、あるいは過電圧継電器と電圧引き外し装置(SHT)を組み合わせて独自の保護システムを構築するのか、それぞれのメリットと保守性を天秤にかけて判断する必要があります。また、階層構造における保護の死角をなくすことや、トランスの過負荷を防ぐための負荷バランシングも、事故を未然に防ぐための重要な要素です。
電気設備の安全は、細かな計算と丁寧な結線図の積み重ねによって守られます。本記事が、皆様の設計現場における判断の一助となり、不測の事態から大切な設備資産を守る一助となれば幸いです。現場の安全を第一に、信頼性の高いシステム構築を目指していきましょう。


