実務で役立つOCR試験ガイド|東京電力管内の2段整定とJIS基準

実務で役立つOCR試験ガイド 整定のあれこれ 受変電

はじめに

過電流継電器(OCR)の試験を単なる保守点検のルーチン作業と考えてはいけません。OCRは受変電設備における「頭脳」であり、事故が発生した際にどの範囲を、いつ切り離すべきかを決定する司令塔の役割を果たしています。設計者が図面上で行った保護協調の計算は、あくまで「期待値」に過ぎず、その期待通りに物理的なリレーが演算を行い、配線が信号を伝え、最終的に遮断器が主回路を切り離すという一連のプロセスが、100%の精度で機能することを証明するのがOCR試験の真の目的です。本記事では、受電容量300kVA程度の一般的な高圧需要家をモデルケースに、設計から試験完了までのプロセスを論理的な一貫性を持って紐解いていきます。


そもそも過電流継電器(OCR)とは?

過電流継電器(OCR)は、受変電設備において電流の異常を監視し、プラント全体を保護する役割を果たす非常に重要な装置です。電線や電気機器に定格を超える過大な電流が流れた際、そのまま放置すると発熱による火災や機器の焼損といった重大な事故に繋がります。OCRは変流器(CT)を介して常に回路の電流値を検出しています。そして、あらかじめ設定した閾値を超えた場合に異常と判断します。この装置単体では電流を遮断する力はありませんが、異常を検知した瞬間に遮断器(VCBなど)へトリップ信号を送ることで、約3サイクル(0.05~0.06sec)以内に事故区間を電路から高速に切り離す重要な指令塔として機能します。

その役割の核心は、単なる遮断ではなく「保護協調の実現」にあります。例えば、需要家内部の末端で事故が起きた際、受電点にあるメインの遮断器が即座に落ちてしまうと、建物全体が停電する波及事故を招いてしまいます。そこでOCRには、電流が大きくなるほど高速に動作する「反限時特性」や、落雷などの短絡事故時に即座に反応する「瞬時特性」が備わっています。これらの特性をタップやレバーで細かく調整することにより、事故点に最も近い遮断器だけを優先的に動作させ、停電範囲を最小限に食い止める(局限化する)ことができます。このように、電力供給の安全性と継続性を両立させることが、過電流継電器に課せられた真の使命です。


静止形OCRの外観

静止形OCRの一般的な外形図

静止形(デジタル形)のOCRは、かつての主流であった誘導形に比べると非常にコンパクトで、洗練された制御機器としての外観を持っています。盤の前面(パネル面)に露出する部分は、一般的に樹脂製の長方形のケースで覆われており、中央付近には現在の電流値や設定値を表示するための液晶表示部や7セグメントLEDが配置されています。これにより、試運転や点検時に現在の負荷電流をひと目で確認できるのが大きな特徴です。その下部には、動作電流(タップ)動作時間(レバー)をデジタル数値で切り替えるための設定スイッチや操作ボタンが並んでおり、指先や精密ドライバーで確実な設定変更が可能です。

また、事故時に動作したことを示す「始動」や「瞬時」といった文字が印字された動作表示灯(LED)が備わっており、ひとたび動作すれば赤色に点灯して、どの要素で遮断が起きたのかを保守点検者に明示します。実際には中央監視画面や盤面の表示灯で確認することの方が多いと思いますが。

ちなみに、静止形の継電器本体は、パネル面に取り付けられたケースから引き出して取り出すことが可能であり、メンテナンスの効率化と安全性を高度に両立させた設計が特徴です。多くのモデルでは、前面の固定ネジを緩めるだけで、背面の配線に触れることなく本体ユニットのみを手前に引き抜ける「ドローアウト構造」を採用しています。最大の利点は、引き抜き動作と連動して変流器(CT)の二次側回路を自動的に短絡(ショート)させるコネクタ機構を備えている点にあります。これにより、通電中であってもCT開放による高電圧発生のリスクを抑え、安全にリレー本体を分離できます。継電器の動作試験の際も本体を机上に持ち出せるため、狭い盤内での作業負担が大幅に軽減されます。万が一の基板故障時も、配線作業なしでユニット交換が完了するため、復旧時間の短縮に大きく寄与します。

補足:誘導型形OCR

誘導形OCRの一般的な外形図

かつて広く普及していた誘導形過電流継電器(OCR)についても触れておきましょう。1980年代に静止形OCRが登場しました。制御盤の寿命が30~40年程度であることを考慮すれば、2026年現在はかなりのものがリプレースされて静止形OCRへ変わっている感覚があります。が、実際には、T係長の関わる現場でも、誘導型はいまだに現役です。何なら結構出会いますから、無視することはできません。

誘導形OCRは、過電流を検知して円盤が回転する磁気誘導の原理を利用しているため、前面の透明なガラスケース越しに内部の構造がはっきりと見えるのが特徴です。振動を「過電流」と誤検知することがあるので、扉の開閉時は「ゆっくり!!!」と先輩に口酸っぱく言われていた新人時代のことを、T係長はいまだに覚えています。

中心にはアルミニウム製の円盤が配置されており、設定値を超える電流が流れるとこの円盤がゆっくりと、あるいは激しく回転し始める様子を視認することができます。上部には物理的なタップ受けプラグがあり、プラグを差し替えることで電流値を設定する仕組みになっています。動作時には円盤の回転に伴って可動接点が固定接点へと近づいていき、接触した瞬間に「ターゲット」と呼ばれるオレンジ色の旗がパタンと落ちて動作を知らせます。

誘導形OCRにおける引き出しは、その製品の設計年代や仕様によって構造が分かれます。比較的新しい誘導形では静止形と同様のドローアウト構造を持つものもありますが、基本的には物理的な可動部とケースが密接に組み合わさった堅牢な作りをしており、引き出しはできないものが多かったです。

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タップ値やレバー値(ダイヤル値)とは何か

試験器のスライダックを動かす前に、まず「なぜその設定値なのか」という設計上の根拠を理解する必要があります。数値の意図を知らずに試験を行うのは、行き先のわからない地図を見ているのと同じです。焦らず、順に理解していきましょう。

タップ値はどう決まる?

タップ値は、正常な負荷電流では動作せず、過負荷や短絡事故を確実に検知するための閾値です。OCRのタップ値には、過負荷から保護する「限時要素タップ」と、短絡事故から設備を守る「瞬時要素タップ」の二種類が存在し、それぞれが異なる保護の役割を担っています。

限時要素タップは、主に設備の定格電流に基づき、許容範囲を超える緩やかな過電流(過負荷)を検知するためのものです。これは変圧器や電線の過熱を防ぐことを目的としており、一般的には定格電流の120~150%程度の値が選定されます。この設定値は、リレーが「反限時特性」という時間管理を開始する基準点となります。反限時特性とは、OCRに流れる電流が大きくなればなるほど、動作するまでの時間が短くなるという性質のことです。この特性は、電気設備における「熱的な許容限界」と「事故の緊急度」を合理的に管理するために不可欠な概念です。

一方で瞬時要素タップは、落雷や回路の短絡といった、一刻を争う激しい大電流からシステムを保護するための閾値です。こちらは限時要素のような待ち時間を持たず、設定値を超えた瞬間に遮断器を叩く役割を持ちます。設定にあたっては、限時タップよりも遥かに高い定格電流の1000~1500%を目安に設定されます。

このように、OCRは「じわじわと流れる過負荷」と「一瞬の短絡事故」という性質の異なる異常を、二つの独立したタップ値によって峻別し、受変電設備の安全を二段構えで守っています。

モデルケースで確認!

例えば、主変圧器の容量 200kVA、受電電圧6.6kV、CT比 30/5A のモデルケースを想定します(契約電力 135kW 想定)。受電設備の定格電流は \( I_{n1} = \displaystyle\frac{200}{\sqrt{3}\times 6.6 } = 17.50 \)[A]となり、CT二次側に流れる定格電流は \( I_{n2} = 17.50 \times \displaystyle\frac{5}{30} = 2.92 \)[A]と算出されます。

実務上、OCRのタップは限時動作の場合は、先述の通り定格電流の120%から150%程度に設定するのが一般的です。仮に150%で設定する場合、\( 2.92 \times 1.5 = 4.38 \) [A]に最も近い設定値として、タップ「5」を選択することになります。OCRのタップ値は一般的に「2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 10 …」といった段階的な数値になっているため、計算値に最も近く、かつ定格電流を確実に上回る「タップ値 5」を選択するのが妥当な判断です。次に、瞬時動作の場合です。先述の通り定格電流の1000%から1500%程度に設定するのが一般的です。仮に1000%で設定する場合、\( 2.92 \times 15 = 43.8 \) [A]に最も近い設定値として、タップ「50」を選択することになります。

実務上は限時のタップ「5」以上とすると配変側のOCRとの協調が取れなくなることが多いです。その場合には、レバー値で逃げるか、そもそもCT比を見直すのも一つの手です。もしくは、実際の負荷が定格より低いことが分かっており、かつその状態で長期間運用されるのであれば、実際の定格負荷を基準に設定を絞ることもあります。

レバー値(ダイヤル値)はどう決まる?

次にレバー値の選定ですが、これは動作時間を支配するパラメータであり、保護協調の要となります。事故が発生した際、上位である電力会社の遮断器よりも先に、私たちの関わる設備側の遮断器を動作させる必要があります。もし先に配変側を落としてしまったら、波及事故です。主任技術者としては、これだけは絶対に避けなければなりませんね。かつては誘導形OCRでは「レバー値」と呼んでおり、現在の静止形OCRでは「ダイヤル値」と呼びます。どちらも同じ意味と考えて良いです。

さらに、下位の負荷にある高圧カットアウトや低圧配線用遮断器との動作時間の段差を作るためのレバーを選びます。受電点ではレバー「2」前後が選定されることが多いですが、これは電力会社の特性曲線に自所のカーブをプロットし、確実に階段状の保護が成立することを確認して決定されます。先ほどのモデルケースに、もう少し肉付けしたもので考えてみましょう。

タップ値の再確認

主変圧器200kVAの系統に、実務で必ず直面する高圧進相コンデンサ(20kVA、直列リアクトルL=6%付)と、大型モータ(37kW、商用起動で起動電流は定格の約8倍想定)を加えたモデルケースを考えましょう。タップ値の整定は少し変化します。これは単に平常時の負荷電流だけでなく、各機器の特性によって発生する突入電流を考慮しなければならないためです。

まず、高圧進相コンデンサが瞬時要素に与える影響について解説します。コンデンサを投入した瞬間には、計算上の定格電流の70倍程度の大きな突入電流が流れます。直列リアクトルが設置されている場合であっても、定格電流の10倍程度の突入電流が数サイクルの間流れるため、もし瞬時要素のタップ値が低すぎると、コンデンサを投入した瞬間に受電遮断器が誤ってトリップし、全域停電を招く事態となりかねません。

今回のCT比30/5Aのケースにおいて、瞬時タップを「40」といった比較的低い値に設定していると、主変圧器の励磁突入電流とコンデンサの突入電流が重なった際に誤動作するリスクが極めて高くなります。したがって、実務上は瞬時タップを「50」以上に設定し、これらの不要動作を確実に避けるのが定石とされています。

次に、大型モータの起動が限時要素に与える影響を検討します。37kWのモータを商用起動(直入れ起動)する場合、起動時には定格電流の約8倍という大電流が数秒間にわたって流れます。37kWモータの一次側換算の定格電流は

\( I_{n1} = \displaystyle\frac{P}{\sqrt{3}\times V \times \cos\theta \times \eta } \)
\( I_{n1} = \displaystyle\frac{37}{\sqrt{3}\times 6.6 \times 0.8 \times 0.9 } = 4.50 \) [A]

ですが、その8倍となる起動電流は 約36A に達し、これをCT二次側に換算すると 6A となります。ここで、もし限時タップを主変圧器の定格付近である「5」に設定していると、モータが回り始めてから加速が終わるまでの数秒間、過電流継電器はこれを「継続的な過負荷状態」と認識し、反限時特性に基づくカウントダウンを開始してしまいます。特に、ファンやブロワーのようにモータの起動時間が長い負荷の場合、加速が完了して電流が落ち着く前に、継電器がタイムアップして動作してしまう恐れがあります。この場合、対策として限時タップ値を「6」や「7」へ上げる(実務上は先述のようにこの選択は取れません)ことで動作開始電流自体を高く設定するか、あるいは「レバー(動作時間設定)を大きくする」ことで、突入電流を一時的な現象としてやり過ごす調整が必要になります。

レバーの選び方

さて、話を戻しましょう。レバーを決めるには下位側の負荷も、上位側の整定も考えなければなりません。新設時だけでなく、負荷の増設や変圧器の入れ替えに伴い設定を変更する場合も、事前に「保護協調曲線」を作成し、電力会社側の保護装置と整合が取れているかを確認するプロセスが不可欠なことは、皆さまご存じの通りです。

東京電力管内を例に挙げると、定限時特性の1段目は780A(0.5sec)、2段目1560A(0.2sec)です。実際にはOCRの慣性特性0.05secと、需要家側のVCB遮断時間3サイクル(50Hz帯0.06sec)を考慮し、0.05 + 0.06 = 0.11sec 需要家側が速く動作しなければなりません。これをレバー1から順に、保護協調を取れる範囲で決定します。

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保護継電器特性試験:精度の証明

保護継電器は整定を決めるだけではだめです。保護継電器が設計通りの精度で動作できるかを確認することが必須です。この試験は JIS C 4602(高圧受電用過電流継電器)という公的根拠に基づいて実施されます。これは保護継電器単体で行うものです。保護継電器本体を盤面のケースから引き出して試験を実施することも可能です。

まず行う動作特性試験では、保護継電器が設定されたタップ値で正しく反応を開始するかを確認します。電流をゼロから徐々に上昇させ、動作表示灯が点灯する瞬間の電流値を読み取りますが、これがタップ値の±10%以内に収まっていることが合格の条件です(JIS C 4602 5.1.0A)。

次に、反限時特性が正しく機能しているかを確認する限時特性試験を行います。ここではタップ値に対して 200%、300%、700%、1000% の電流を急峻に印加し、動作時間を計測(各5回)します。判定はメーカーが発行する動作特性曲線とJIS規格の許容誤差、一般的に基準時間の±12%から17%程度を基準に行います。さらに、短絡事故を想定した瞬時動作特性試験では、設定値の±15%以内で動作し、かつ動作時間が0.05秒以下であることを確認します。これらは JIS C 4602 5.2 に規定があります。


組み合わせ(シーケンス)試験:経路の証明

保護継電器の「精度」が証明されたら、次はシステム全体の連携を確認するために、OCRをケース内に戻して、実際に遮断器(VCB)を開放できるか否かの連動試験を実施します。保護継電器の動作がいくら正確でも、肝心のVCBをトリップさせる回路が故障していたり、配線が断線していたり、あるいは遮断器のトリップコイルが焼き切れたりして、VCBを開放することが出来なければ、波及事故は免れません。最も重要な試験の一つです。

実務上の合理性を追求するならば、ここでは限時と瞬時の各要素で1回ずつ遮断器を動作させれば十分です。特性試験で既に精度は証明済みであるため、シーケンス試験において、300%、700%、1000%などの細かな区分で電流値を分けて実施する必要はありません。配線の導通確認において電流値の大きさは本質的ではないからです。機械的な動作回数1万回程度のVCBを何度も開放と投入を繰り返すのも避けたいですからね。

ただし、限時でのトリップと瞬時でのトリップをそれぞれ各1回ずつ確実に実施することがプロの作法です。これはOCR内部で限時接点と瞬時接点が物理的に分かれているモデルが存在するためであり、一方の経路が生きているからといって、もう片方が正常であるとは限らないからです。確実に両方のルートが遮断器を叩けることを、一回ずつのトリップ動作によって証明します。


まとめ

過電流継電器(OCR)の試験は、単なる数値の確認作業ではありません。設計段階で練り上げられた保護協調という「理論」が、過酷な事故現場において確実に「現実」の遮断動作へと変換されることを担保する、極めて重要なプロセスです。

今回のモデルケースで見てきたように、主変圧器の容量だけでなく、高圧進相コンデンサや大型モータといった負荷の特性、さらには電力会社が定める「2段整定」という外的な制約までを統合的に判断して、初めて「生きた整定値」が導き出されます。そして、その設定値を基に行われる特性試験とシーケンス試験こそが、波及事故を防ぐための最後の砦となります。

電気管理技術者や電気主任技術者にとって、OCRの試験成績書に並ぶ数字の一つひとつは、設備の安全を守るという決意の証でもあります。JIS規格やメーカーの基準を深く理解し、常に「なぜこの値なのか」という設計思想に立ち返る視点を持つこと。その誠実な積み重ねこそが、電気設備の信頼性を支え、ひいては社会のインフラを守ることに繋がるのです。本記事が、皆様の現場におけるより深い理解と、確実な実務の一助となれば幸いです。

この記事を書いた人
T係長

30歳で制御設計の世界に飛び込み、未経験から10年以上にわたり、プラント設備の制御設計・更新・改造案件に携わってきました。これまで100件を超える現場経験を通じて、設計図面から制御盤、シーケンス制御、保護協調まで幅広い電気技術を磨いてきました。
保有資格は「第二種・第三種電気主任技術者」「第二種電気工事士」「基本情報技術者」。資格の枠にとらわれず、現場で困っている人を助けられる技術者であることを大切にしています。
このブログ「誠電気設計」では、初心者や若手エンジニアの方にもわかりやすく、実務に役立つ知識を共有しています。学びを通じて、読者とともに成長し続けることを目指しています。

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