YS1700から始めるPID制御のステップアップ!多ループ制御の基本と応用

YS1700から始めるPID制御のステップアップ! 計装

はじめに:

PID制御は、工業プラントからビル設備まで幅広い分野で利用される基本的な制御手法です。比例(P)、積分(I)、微分(D)の3要素を組み合わせることで、外乱に強く安定した制御を実現できます。そのため、温度、流量、圧力といった重要なプロセス変数を扱う際に欠かせない技術となっています。現場では計装機器に標準搭載されていることも多く、設備保全や設計に携わる技術者が理解すべき基礎知識のひとつといえます。

この記事では横河電機の調節計「YS1700」を題材に、PID制御の基礎と応用を分かりやすく解説していきます。YS1700はワンループコントローラとして高い信頼性を持ち、多くの現場で採用されています。その一方で、工場の制御要求は年々複雑化しており、単一ループ制御だけでは十分に対応できないケースも増えています。そこで重要になるのが「多ループ制御」という考え方です。

本記事の目的は、YS1700をベースにPID制御の仕組みを理解しつつ、さらに高度な制御システムへと発展させるためのステップを整理することです。単一ループの安定運転から始め、カスケード制御やセレクタ制御、多点対応機器による拡張までを見通すことで、設計や機器選定に役立つ知識を得ることができます。PIDの基本は下記の記事でもご確認いただけます。


PID制御の基礎とYS1700での実装

PID制御は比例(P)、積分(I)、微分(D)の3要素を組み合わせて、制御対象の安定化を図る方式です。YS1700はこの基本的なPIDに加えて、比例先行型(I-PD)や微分先行型(PI-D)といった方式をサポートしています。

I-PDは積分による安定性を確保しつつ、出力の過大な変動を抑えられるのが特徴です。通常のPID制御では、P(比例)とD(微分)は目標値と現在値の偏差に基づいて操作量を決定します。しかし、目標値が急に変わると、この偏差も急激に変化するため、PとDの出力が一時的に大きく跳ね上がってしまいます。比例先行型制御では、Pの入力を目標値と現在値の偏差ではなく、現在値のみとします。これにより、目標値が急変してもPの出力が直接影響を受けないため、操作量の急激な変化(キック)を抑えることができます。

一方、PI-Dは応答性を高めつつ微分でノイズの影響を軽減できるのが特徴です。通常のPID制御では、目標値が急変した際、偏差の微分値が無限大に近づくため、D項の出力が非常に大きくなり、操作量の急激な変化(キック)が発生しますが、微分先行型制御では、Dの入力を目標値と現在値の偏差ではなく、現在値のみとします。この制御方式では、Dが現在値の変化のみを参照するため、目標値の急変による影響を回避し、キックを抑制することができます。

さらにYS1700には、制御を安定させるための補助機能が多数搭載されています。たとえば入力信号のノイズを低減する入力フィルタや、アクチュエータを保護する出力リミッタなどが挙げられます。これらの機能を適切に活用することで、制御対象の特性変動や突発的な外乱にも強いシステムを構築することが可能となります。PIDの理論だけでなく、こうした実用的な補助機能を理解することが現場では非常に重要です。

内部システムだけではなく、YS1700は操作性の高いフロントパネルや設定ソフトを通じて、現場担当者でも直感的にパラメータ調整が行える点も特徴です。特にPID調整は専門知識が要求される部分ですが、自動チューニング機能やガイドが搭載されているため、制御経験が浅い技術者でも基本的な安定化を図れます。これにより、現場の保全担当者が短時間で制御ループを立ち上げられる利便性も大きなメリットといえるでしょう。現場でも横河電機のワンループコントローラはよく出会います。

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PID制御の多ループ化:なぜ必要?

単一のPID制御ループでは、制御対象が比較的単純な場合に有効ですが、実際のプラントでは複数の変数が相互に影響し合うケースが多々あります。そのため、複数のPIDループを組み合わせて制御する「多ループ制御」が必要になります。たとえば温度と流量が同時に影響する反応槽では、片方のループだけでは安定運転が難しく、多ループ制御によって相互補完することが求められます。

YS1700は信頼性の高い調節計ですが、対応できる制御ループは最大で2つに限られています。後述する、単純なカスケード制御やセレクタ制御であれば十分対応できますが、複雑な多変数制御や3ループ以上を必要とするプロセスでは限界が生じます。制御システムの規模が大きくなると、YS1700単体では全てをカバーできない点を認識しておくことが重要です。

この限界を理解することで、次のステップとして他の多ループ対応機器や上位システムの導入を検討する必要が出てきます。制御ループの数を増やすことは単なる機能追加ではなく、外乱への強さやプロセス効率の向上、安全性の確保にも直結します。そのため設計段階で「多ループ制御が必要か」を判断できることが、計装エンジニアにとって大切なスキルとなります。


カスケード制御とセレクタ制御の具体的な使い方

カスケード制御は、主ループと副ループを直列に接続し、相互に連携して外乱に対応する方式です。典型的な例は、反応槽の温度制御における利用です。主ループでは反応槽内の温度を制御し、副ループでは加熱媒体の流量を制御します。加熱蒸気圧力などの外乱が加わった場合でも、副ループが先に補正するため、主ループはより安定した応答を得ることが可能です。これにより品質の安定化やエネルギー効率の改善につながります。

カスケード制御の設定例(温度:マスタ、流量:スレーブ)

ループ制御対象比例帯 (PB)積分時間 (Ti)微分時間 (Td)備考
主ループ温度制御100~300%60~300 秒0~30 秒応答を遅めにし、全体安定を優先
副ループ流量制御50~150%5~20 秒0~2 秒応答を速めに設定し、追従性を高める

一方、セレクタ制御は複数の制御ループから最適な出力を選択する方式です。たとえば、化学反応炉の温度と圧力を両方とも危険なレベルにしないように制御する場合を考えましょう。温度制御用と圧力制御用の2つのPIDコントローラーを用意します。そして、「どちらかでも上限を超えそうになったら燃料を絞る」というルールをセレクタ制御で実現します。具体的には、2つのコントローラーの出力のうち、燃料をより絞る指示(つまり小さい方の値)を選択して炉に送ることで、温度と圧力の安全を同時に守ることができるのです。

セレクタ制御の設定例(燃焼炉:流量+炉圧)

制御ループ制御対象比例帯 (PB)積分時間 (Ti)微分時間 (Td)備考
ベース制御燃料流量制御50~150%10~30 秒0~5 秒通常時はこちらが主体で制御
補助制御炉圧制御100~200%30~90 秒0~10 秒安全確保のため、ゲイン控えめに設定

カスケード制御とセレクタ制御はいずれも、YS1700のような調節計で実現可能です。ただし、運転状況やプロセス特性に応じた設計が必要であり、実際の導入ではシステムシミュレーションや現場試運転を通じて最適化を図ります。制御理論だけでなく、実機での挙動を確認しながらパラメータを調整する姿勢が、安定した制御を確立するために不可欠です。


横河電機以外で多ループ対応の調節計

YS1700が扱えるループ数は最大2つまでですが、実際の現場ではそれ以上の制御ループを必要とすることが少なくありません。その場合には、多点対応可能な調節計やモジュール型の制御機器を検討する必要があります。これにより、複雑なプロセスに対しても柔軟かつ拡張性のある制御システムを構築できます。

理化工業(RKC)は多点温度調節計で知られており、代表的な製品には4ループ対応の「MA900」、8ループ対応の「MA901」シリーズがあります。これらは1台で複数点の温度制御を行えるため、加熱炉や乾燥機など多点管理が必要な設備で強みを発揮します。富士電機の「PUMシリーズ」もマルチループに対応しており、モジュールを追加することでループ数を柔軟に拡張できるのが特徴です。

さらに大規模な制御が必要な場合には、調節計単体ではなく上位システムの導入が有効です。代表例がDCS(分散制御システム)やPLCです。DCSは大規模プラント全体の統合制御に適しており、数百以上のループを一元的に管理可能です。PLCは生産ラインや装置制御に強みを持ち、PID制御機能を持つCPUやモジュールを組み合わせることで多ループ制御に対応できます。YS1700を出発点として、必要に応じてこうした上位システムへ発展させることで、段階的に制御レベルを高めることが可能になります。

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まとめ

本記事では、PID制御の基礎からYS1700の機能、多ループ制御の必要性、さらにカスケード制御やセレクタ制御といった応用手法について解説しました。加えて、YS1700の限界を踏まえた上で、理化工業や富士電機といった他社製品の可能性にも触れました。

重要なのは、制御の目的に応じて最適な方式と機器を選定することです。単一ループで十分な場合もあれば、多ループや上位システムの導入が必要となる場合もあります。現場のプロセス特性と将来的な拡張性を見据えて判断することが、安定した設備運用に直結します。

この記事を書いた人
T係長

30歳で制御設計の世界に飛び込み、未経験から10年以上にわたり、プラント設備の制御設計・更新・改造案件に携わってきました。これまで100件を超える現場経験を通じて、設計図面から制御盤、シーケンス制御、保護協調まで幅広い電気技術を磨いてきました。
保有資格は「第二種・第三種電気主任技術者」「第二種電気工事士」「基本情報技術者」。資格の枠にとらわれず、現場で困っている人を助けられる技術者であることを大切にしています。
このブログ「誠電気設計」では、初心者や若手エンジニアの方にもわかりやすく、実務に役立つ知識を共有しています。学びを通じて、読者とともに成長し続けることを目指しています。

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