はじめに:なぜPLCトラブル対応スキルが必要なのか?
私プラントや生産ラインにおいて、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)は制御システムの心臓部としての役割を果たしています。このPLCが停止することは、ライン全体の停止、製品の不良発生、最悪の場合には設備の破損や安全上の問題に直結する重大な事態です。保全・メンテナンスを担当するエンジニアにとって、PLCのトラブル発生時に「なぜエラーが出たのか」「どう復旧すれば良いのか」を冷静に判断し、迅速かつ正確に対応するスキルは、安定稼働を維持するために必須となります。
本記事では、国内で広く普及している三菱電機 FXシリーズ(FX3S, FX3Uなど)を主な対象とし、現場で遭遇しやすい「CPU異常」や「バッテリー切れ」、「停電復帰時の誤動作」の 3 大トラブルについて、緊急対応手順と根本的な予防保全策を徹底解説します。ここでは、ラダープログラムの書き方のテクニック的なところは紹介しておりません。
PLCの基本状態とエラーランプ(LED)の読み方
トラブル対応の第一歩は、PLC 前面の状態ランプ (LED) の意味を正確に理解することです。三菱 FX シリーズの CPU ユニット前面には、いくつかの重要な LED が配置されており、特に RUN, ERR, BAT の 3 つは CPU の現在の状態を示す重要な指標となります。
1.CPU ユニットの状態ランプの確認
それぞれのランプは、正常時と異常時で異なる状態を示します。例えば、RUN ランプはプログラムが正常に実行中であれば緑色で点灯し、プログラムが停止すると消灯または点滅します。最も注意すべき ERR ランプは、通常時は消灯していますが、重大なエラーが発生すると赤色で点灯または点滅します。また、BATT ランプはバッテリー残量低下の警告として橙色で点灯または点滅します。電源 ON を示す POWER(POW) ランプも基本的な確認対象です。
| ランプ名 | 色 | 正常時の状態 | 異常時の状態と意味 |
| RUN | 緑 | 点灯 | 消灯または点滅 (STOP 状態、またはエラーにより停止) |
| ERR | 赤 | 消灯 | 点灯(CPUエラー・ハードウェア破損) 点滅(プログラムエラー) |
| BATT | 橙 | 消灯 | 点灯(バッテリー交換) |
| POW | 緑 | 点灯 | 点滅(外部配線異常) 消灯(電源異常) |
2.エラーコードの特定方法
ERR ランプが点灯または点滅した場合、まず原因究明のための情報が消える可能性があるため、電源 OFF/ON は絶対にしないでください。緊急対応の最優先事項は、専用ソフト(GX Works2 または GX Works3)をインストールしたPCと PLC とを接続し、エラーコードを特定することがまず第一です。「オンライン」メニューから「診断」機能を選択します。そこでエラー履歴を参照し、発生しているエラーコードとその具体的な内容を確認することで、原因の切り分けが可能になります。特殊レジスタである D8004 にエラー内容に該当する 特殊補助リレーデバイス(M) 8060,8061,8064,8065,8066,8067 のいずれかが格納されています。エラーコードに従って対応を行うだけです。
| デバイス | ERR LED | エラー項目 | エラー後動作 |
| M8060 | 消灯 | I/O構成エラー | RUN/STOP継続 |
| M8061 | 点灯 | PCハードエラー | 強制STOP |
| M8064 | 点滅 | パラメータエラー | STOP継続 |
| M8065 | 点滅 | 文法エラー | STOP継続 |
| M8066 | 点滅 | 回路エラー | STOP継続 |
| M8067 | 消灯 | 演算エラー | RUN継続 |
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重大エラー:CPU 異常(ERR ランプ点灯)の対応
ERR ランプの点灯は、CPU がプログラム実行を継続できない状態、つまりシステムの機能停止を示します。
主な CPU エラーコードと原因
FX シリーズで出会うエラーは、主にプログラムやメモリ、または接続された特殊ユニットに関するものです。基本的にはデバックで潰せているはずですが、とは言え実際の運用の中で見つかる者も決して少なくありません。例えば、ウォッチドッグタイマエラーは、プログラムの演算処理に時間がかかりすぎて、CPU が監視時間内に処理を完了できなかった場合に発生し、複雑な二重ループや通信処理待ちなどが原因となることが多いです。また、メモリエラーはプログラムメモリの破損やデータメモリへのアクセスが指定範囲外で行われた際に発生します。
緊急対応:原因の切り分けと復旧手順
エラー発生時は、まず PLC を STOP 状態にしたまま GX Works3(2) でエラーコードを特定し、マニュアルで内容を照合します。プログラムが原因の場合、直前に変更した箇所やループ構造を確認するか、エラー発生前の正常なバックアッププログラムを PLC に再書き込み(転送)し、RUN にしてみることで復旧を試みます。
ハードウェアが原因の場合は、特殊ユニットや拡張ユニットを一つずつ外し、どのユニットが異常を引き起こしているかを特定します。メモリエラーなどプログラム修復が不可能な場合、メモリ初期化とバックアッププログラムの書き込みが必要になりますが、これはバックアップがあることを確認した上での最終手段としてください。
危険なサイン:バッテリー切れ(BATT ランプ点灯)の対応
BATT ランプの点灯は、CPU エラーのような即時停止を引き起こすものではありませんが、放置すると停電時に致命的なデータ消失を招くため、早急な対応が必要です。
PLC バッテリーの役割と寿命
FX シリーズのバッテリーは、PLC の電源が OFF になった際に、内部のラッチリレーやラッチデータレジスタなどに書き込まれた設定値や積算値を保持する役割を果たします。バッテリーの寿命は一般的に 3~5 年とされており、BATT ランプが点灯した場合は、残量が少ない警告と認識し、予防保全として計画的な交換が求められます。
基本的にはUPS等の無停電電源でPLCの電源を供給することが多いですが、私たちの関わるプラントでは、安全性・信頼性が最も重要視されます。「停電することはない」などという慢心は捨て、きっちりとバッテリー管理を行いましょう。
緊急対応:バッテリー交換の正しい手順
まずは現在のデータを念の為バックアップとして取っておきます。次に、PLC の電源を OFF にして、急いで、でも慌てずにバッテリーを交換してください。ちなみに20秒以上経過してしまうとデータ保持できません(停電補償)。バッテリーの交換後、BATT ランプが消灯したことを確認し、念のためラッチデータが保持されているかも確認しておくことが重要です。
余談ですが、富士電機製のPLCは電源投入したままバッテリー交換が可能です。機種によっていろいろありますが、原則は活線作業による感電を等の事故を避けるためにも、電源は切った状態で作業をすることが望ましいとT係長は考えています。電気はキケンなのです。
実は本当に重要なのは、「このPLCを停止させるとどんな影響があるか」を考えることです。例えば、ポンプ用のインバータ回転数設定を担っていた場合、当然PLCがダウンして回転数設定値は0になります。そうならないように、事前に自動モードから当該負荷を手動固定束モードにしておいたり、そもそも停止させておいたりすることもあります。ついつい目の前の問題を解消することに意識が向きがちですが、深呼吸して周りを見回すことが私たちエンジニアには非常に重要なのです。
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停電による影響と復帰時の誤動作事例と対策
停電は PLC の RUN 状態を STOP へ移行させる一般的なトラブルですが、電源が復帰した際に PLC が自動で再起動することによる予期せぬ誤動作が、設備の破損や事故につながることがあります。基本的には停電前の状態を保持していることが原因になってしまうのです。実際にトラブル事例を見てみましょう。
停電復帰時の誤動作事例
停電からの復帰時、外部の機器や信号の状態が整わないまま PLC が動作を開始することが誤動作の主な原因です。例えば、安全回路やインターロックの欠如により、停電中に外部スイッチが ON のままの場合、PLC の出力リレーは OFF になるものの、復帰時に外部の ON 信号を検知してモータやポンプを急に起動させてしまう事例があります。
また、プロセス変数(温度、圧力など)の現時点の「真の値」を把握しないまま制御を再開し、異常な状態で運転を継続してしまうプロセスの中断による異常再開も重大な事例です。T係長は、ポンプ回転数が停電で落ちたところから、復電後に停電前の設定値までいきなり戻そうとするプログラムが走ってしまい、過電流が流れた事例を経験しました。この時はバンプレス設定も不適切だったことも重なっていましたが。バンプレスについては下記の記事でも簡単に紹介しています。
誤動作を防ぐための対策
1. プログラム側の対策:リスタート回路の組み込み
誤動作を防ぐためには、電源復帰後、必ず安全な初期状態を経てから運転を開始するシーケンスをプログラムに組み込むことが最も重要です。FX シリーズの瞬時停電復帰用リレー(M8033 など)を活用し、電源 $\mathrm{ON}$ の瞬間にこれをトリガーとして、プログラムの先頭で全ての出力(Y)や内部動作リレー(M})を一括 OFF する処理を設けるのが良いでしょう。さらに、運転再開には、オペレータによる「運転準備完了」を確認した後の手動操作に従うなどのプログラム上の条件とすることも有効です。
2. ハードウェア・データ側の対策
ハードウェア面では、安全に関わる重要な出力には、PLC の出力だけでなく、外部ハードリレーで制御回路を設け、PLC の電源復帰と同時に勝手に復帰しないようにすることが重要です。また、データ面では、停電時に保持すべき最低限のデータのみをラッチ設定し、出力リレー(Y)は原則ラッチ設定しないことで、電源復帰時に出力が一斉 ON になることを防ぎます。また、下記の記事でも紹介した時間遡及可能なアナログバックアップをアナログ設定値に対して設けることも非常に有効です。
まとめ
ここまでの解説を通して、PLC のトラブル対応は、単にエラーを解消するだけでなく、事前の周到な準備と復帰時の安全確保が極めて重要だとご理解いただけたかと思います。私たちは、ERR ランプが点灯した際の冷静なコード特定とバックアップを用いた迅速な復旧、そして BATT ランプの警告を見逃さない計画的な交換手順を学びました。しかし、本当に恐ろしいのは、停電復帰時の予期せぬ誤動作です。このリスクを排除するため、瞬時停電復帰リレーを活用した全出力リセットと、手動リセットを必須とするリスタート回路の組み込みが、プログラムにおける安全設計の要となります。
安定稼働は、日々の地道な点検と予防保全の積み重ねの上に成り立ちます。具体的には、プログラムのバージョン管理を徹底したバックアップ、バッテリーの計画的な予防交換、そして復帰時の安全性を高めるためのラッチ設定の厳格化が挙げられます。電気を扱うエンジニアとして、私たちには「キケン」を予見し、安全を最優先に行動する責任があります。これらの知識と手順を習得し、現場の「困った」を「できた」に変え、プラントの信頼性を維持していくことが、私たちの最大の使命と言えるでしょう。



