はじめに:なぜ電源SPDが必要なのか
工場やオフィスビル、プラントの電気設備は、雷や開閉操作によるサージから常に脅威を受けています。サージ電圧は一瞬で数kVから数十kVに達することがあり、制御盤やサーバ、計装機器などの精密機器に甚大な損傷を与えます。絶縁破壊や基板焼損が起これば、単なる修理費用にとどまらず、長時間の生産停止や重要データの消失といった大きな損失につながります。
こうしたリスクを低減する装置がSPD(サージ防護デバイス)です。SPDは、過電圧を制限しサージ電流を安全に大地へ逃がす「安全弁」のような役割を担います。しかし、ただ設置すれば安心というわけではありません。接地や配線方法、ELCBやブレーカとの協調、高調波ノイズの影響といった要素を正しく考慮してこそ、はじめて期待される保護効果を発揮します。本記事では、単なるカタログ知識にとどまらず、現場の実務者が直面しやすい課題を解決するための具体的な指針を解説します。
このブログ記事では、電源用SPDの基本原理から多段防御、接地やELCB協調、高調波対策、点検管理までを実務的に理解できます。
電源用SPDの基本と規格
SPDとは「Surge Protective Device」の略称で、雷サージや開閉サージによって発生する過電圧を制御する装置です。選定において最も重要な指標は「制限電圧(Up)」であり、これはSPDがサージを処理した際に機器へ印加される電圧の上限を意味します。対象機器の耐電圧以下に抑えられるSPDを選ぶことが前提となります。
また、SPDは性能や設置目的に応じてクラス分類されています。クラスIは直撃雷に伴う大電流を処理でき、受電設備や高圧変電設備の入口に設置されます。クラスIIは誘導雷や開閉サージへの対応が目的で、分電盤や制御盤入口に配置されます。さらに、クラスIIIは精密機器直近に設置され、残留サージを最終的に吸収します。重要なのは「一台ですべてを守ろうとしない」ことです。受電設備にクラスI、動力盤や制御盤にクラスII、精密機器にはクラスIIIという多段構成が、現場における基本的な考え方です。計装関連のSPDに関しては、下記ブログ記事も参考にしてください。
SPDの効果を左右する接地と等電位化
SPDは過電圧を制御するだけでなく、大電流を瞬時に大地へ逃がす動作をします。その際、SPDが接続されている部分の電位は一時的に上昇します。もし接地が不十分であれば、機器間に電位差が生じ、サージは別経路を通って機器を破壊してしまいます。これを防ぐ基本原則が等電位ボンディングです。すべての金属体やシールド線、接地線を適切に結合し、電位差を生じさせないことが決定的に重要です。
等電位ボンディングは、雷やサージ発生時に機器間で電位差が生じないよう、建物内の金属体や機器を共通の基準電位で結ぶ技術です。特に日本で多く採用されるTN接地方式では、電源の中性線と保護接地(PE)が系統の一点で直結されています。この構造を前提に、SPDの動作時には大電流がPEに流れ込み、一時的に電位が上昇します。もし等電位化が不十分だと、機器ごとに電位差が残り、絶縁破壊や信号機器の誤動作を引き起こします。そのため実務では、TN接地のPEと機器筐体、配管、シールド線を接地端子箱などでまとめ、最短かつ低インピーダンスで接続します。リード線は可能な限り短くし、30cmを超えないようにすることが望まれます。
こうした徹底した等電位ボンディングによって、SPDの保護性能を最大限に活かし、安全で安定した電源環境を実現できます。実際の現場では、制御盤の設置スペースの都合で長いアース線を使ってしまうケースが多く見られますが、これはSPDの保護性能を大きく損なう典型的な失敗例です。
さらにLANケーブルや計装信号線と電源SPDのアースが分離されている場合、サージ電流が信号系統を経由して機器に侵入することがあります。したがって、電源・通信・制御の全系統を含めた等電位化が欠かせません。
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高調波・ELCB・過電流保護の課題と対策
現代のプラントや工場では、インバータやスイッチング電源の普及により高調波が顕著に発生します。高調波はサージとは異なり連続的なノイズであり、SPDの内部素子を加熱・劣化させる要因となります。その結果、SPDが早期に寿命を迎えたり、誤作動を起こす場合があります。対策としては、高調波耐性を持つSPDを選定することや、ラインフィルタやアクティブフィルタを併用して高調波を低減することが実務上効果的です。特に主回路に接続する電源用SPDは、適切な対策を施さなければ、その影響が顕著に出てしまいます。
また、電源用SPDはELCB(漏電遮断器)との協調にも注意が必要です。SPDが動作すると、一時的に大地へ大電流が流れます。この電流をELCBが漏電と誤検知し、不必要なトリップが発生する事例があります。実務的な解決策として、SPDは必ずELCBの一次側に設置し、ELCBにはサージ耐性が確保されたタイプを選定することが推奨されます。
さらに、ELCBには「瞬時動作型」と「時限付き動作型」があり、SPDが動作する際のごく短いサージ電流を無視し、本当の漏電だけを遮断させるために、両者の動作時間を調整することが重要です。電源用SPDはマイクロ秒レベルで動作し、電流を素早くバイパスします。一方でELCBは数十ミリ秒以上の漏電を検知して遮断するのが理想です。この差を活かして、ELCBを「時限付き」の選定とすることで、SPDによる瞬間的な動作では遮断せず、持続的な漏電だけを検出する協調が可能となります。
さらに、電源用SPDは内部素子が劣化すると短絡状態となることがあります。その場合、前段に過電流保護装置がなければ火災につながる危険があります。SPDメーカが指定する分離器やヒューズを設置し、カタログ値の容量を厳守し、盤規模に応じてMCCBやヒューズを適切に組み合わせることが必要です。施工省略は絶対に避けなければなりません。
保守管理と寿命への対応
SPDは消耗品であり、雷サージを受けるたびに内部素子が劣化します。外観に異常がなくても保護性能は低下していきます。多くのSPDには劣化を知らせるインジケータランプや表示窓が備わっており、これを定期的に確認することが第一歩です。ただし、絶縁抵抗計(メガー)での測定は内部素子を破壊する危険があるため、SPDには使用してはいけません。点検時にはメーカーが提供する専用チェッカを使用し、実際の保護性能を確認することが望まれます。
交換管理も重要です。設置日や点検日を記録した台帳を作成し、定期的な更新を計画的に実施します。特に雷の多い地域や高調波の多い系統では寿命が数年で尽きる場合があり、壊れるまで使用するのではなく、予防保全としての交換が求められます。近年ではモジュール交換型のSPDも普及しており、点検時に異常が確認された場合は簡便にカートリッジ交換できるため、実務的に非常に有効です。
まとめ
電源用SPDは単なる保護装置ではなく、工場やプラントの安定稼働を確保するための「システム防御」の要素です。その効果を最大化するためには、多段防御によるエネルギー分散、等電位ボンディングと最短接地による確実な動作、ELCBや過電流保護装置、高調波環境への配慮といった複数の観点を統合的に考える必要があります。
SPDは設置したら終わりではありません。定期的な点検と計画的な交換を前提としたライフサイクル管理が求められます。現場での施工精度と運用管理の両方を徹底することで、初めてSPDはその性能を最大限に発揮します。突発的な事故を防ぎ、安定した稼働を支えるために、電源用SPDを「コスト」ではなく「投資」として捉えることが実務者に求められる視点です。


