リアクトル始動とは?
大容量モータを始動する際、電源に与える影響をいかに抑えるかは非常に重要な課題です。始動時に流れる大きな始動電流は、電力系統に電圧降下を引き起こし、他需要家や他の機器に悪影響を及ぼす可能性があります。スター・デルタ始動以外に、これを解決する一つの方法が「リアクトル始動」です。リアクトル始動方式の仕組みはとてもシンプルで、始動時に直列にリアクトルを挿入するだけです。リアクトルによって、電流の流れを制限する効果が生まれます。これにより、始動時の大きな始動電流を抑制しつつ、安定した始動を可能にします。
リアクトル始動のメリット3点
リアクトル始動の最大のメリットは、始動電流を効果的に抑制しながら、十分な始動トルクを確保できる点です。使用するリアクトルは「タップ値」により、始動時に全電圧の何パーセントの電圧を印加するかを選択できます。標準タップは電気計器では 50-65-80%、電光工業では 65-80% です(特殊タップ品も製作可能です)。
前提として、始動トルクは電圧の2乗に比例して低下します。リアクトル始動では上記のタップ値の2乗ですので、65%タップを選べば42%のトルクが得られます。一方で、スターデルタでは印加電圧が \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\) となりますので、始動トルクは \(\displaystyle\frac{1}{3}\) = 33 % となります。リアクトル始動では80%タップも選べますから、トルク確保の点で大きなメリットがあることがお分かりいただけるでしょう。
2点目のメリットとしては、スター・デルタ始動とは異なり、MC(コンタクタ)の切り替えが少なく、より滑らかな加速が可能になり、モータへの衝撃が軽減され、機器の寿命を延ばすことにもつながることです。
3点目のメリットとしては、高い汎用性と信頼性を兼ね備えることです。基本的には使用する負荷に合わせてメーカに発注するため、リアクトルのインピーダンスを調整することで、始動トルクをモータの負荷特性に合わせて細かく調整でき、様々な用途に柔軟に対応できます。例えば、高負荷で始動する必要があるポンプやコンプレッサなどでも、リアクトル始動であれば安定した加速が期待できます。一方、スター・デルタ始動では、始動トルクが定格トルクの約1/3に固定されてしまうため、始動トルクが不足して始動失敗に陥るリスクがあります。この柔軟性の高さは、リアクトル始動方式が多くの産業分野で採用されている理由の一つです。
補足ですが、リアクトルは非常にシンプルで堅牢な構造であるため、故障が少なく、メンテナンスも比較的容易です。初期コストや設置スペースは必要ですが、長期的な視点で見ると、その高い信頼性は大きなメリットと言えます。
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実務でよくあるミスとその対策
リアクトル始動方式は信頼性の高い方式ですが、現場ではいくつかのミスや見落としが発生することがあります。これらのミスは、機器の故障やシステム全体のトラブルにつながる可能性があるため、特に注意が必要です。特に、設計段階や施工、メンテナンス段階での確認が重要となります。
1. リアクトルの選定ミス(時間定格)
設計段階で最もよくあるミスの一つが、リアクトルの選定ミス(時間定格)です。メーカカタログには「時間定格」が記載されています。リアクトルの「時間定格」選定ミスは、電動機が始動に失敗し、リアクトルが過熱・焼損するという重大な問題を引き起こします。これは、リアクトルの時間定格が電動機の始動時間を下回っている場合に発生します。
リアクトルの時間定格とは、リアクトルが過熱せずに電流を流し続けられる時間を定めたものです。リアクトルは、通常運転時には使われず、電動機を始動する間だけ電流が流れます。この短時間だけ流れる電流に耐えられるように、リアクトルには「0.5分定格」、「1分定格」、「3分定格」といった時間定格が設定されています。
モータのトルク-速度特性曲線と負荷の特性曲線を見比べ、始動トルクに十分な余裕があることと、その時間を確認することが必要です。基本的には連続2回始動が可能な時間を選定します。例えば、始動時間が15秒であれば、15×2 = 30秒 以上の時間定格のリアクトルを選びます。少し余裕が欲しいので、この場合には 1分定格 が良いでしょう。
2. 始動時間の調整ミス
2つ目のミスは、リアクトルをバイパスする始動時間の調整ミスです。切り替えまでの時間が短すぎると、モータの回転速度がまだ十分でないうちに全電圧が印加され、依然として大きな始動電流が発生してしまいます。これは、電力系統に大きな電圧降下を引き起こす原因となります。逆に切り替えまでの時間が長すぎると、リアクトルやモータに熱的なストレスを与え、機器の劣化や損傷に繋がります。この始動時間は、タイマーリレーなどを使って調整しますが、モータの特性に合わせて、現場で微調整を行う必要があります。モータの電流値が安定したところで切り替えるように調整します。始動時の電流変化を計測し、最適なタイミングを探りましょう。
3. 保護協調の考慮不足
3つ目の注意点は、保護協調の考慮不足です。リアクトル始動を用いるモータは高圧負荷となることも多く、その場合には、モータリレーと受電の過電流継電器(OCR)との協調を取る必要性が出てきます。始動電流で受電の保護継電器が動作しないようにするだけではなく、モータリレーの動作の方が保護継電器よりも先に動作しなければなりません。特に、始動時間が長くなる時に協調が取れなくなることがあります。事前に電気主任技術者に確認しましょう。T係長は、既設高圧電動機の更新で、電流値が大きく、始動時間も長くなってしまい、どうしても2Eリレーと保護協調が取れなくなってしまった事例がありました。もちろん、保護継電器の設定を変えてもらうしかないのですが、現地納入直前に気づいたので、かなりどたばたしました。現地入りの3カ月前には一度確認しておくことをおススメします。
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まとめ:リアクトル始動方式の未来と展望
ここまでリアクトル始動の基本、メリット、よくあるミスについて解説してきました。リアクトル始動は、そのシンプルさと高い信頼性から、長年にわたって高圧・低圧誘導電動機の始動方式として重要な位置を占めてきました。しかし、近年では、省エネルギーや高性能化の観点から、インバータによる始動・速度制御が注目を集めています。インバータは、始動電流の抑制だけでなく、運転中の速度を自由に制御できるため、更なる省エネルギー化が期待できます。
それでも、リアクトル始動方式がすぐに廃れるわけではありません。実際には現場では、インバータを常用として使用して、故障時バックアップ用としてリアクトル始動を使用し、切り替えるような構成にしているところも少なくありません。
インバータは、初期コストが高く、複雑な制御回路が必要です。また、使用環境によっては、高調波対策が必要になる場合もあります。一方、リアクトル始動方式は、シンプルで堅牢、そして比較的安価に導入できるという大きなメリットがあります。特に、速度制御が不要で、単純な始動と停止を繰り返すような用途においては、今後も有効な選択肢であり続けるでしょう。
電気技術の進化は目覚ましいものがありますが、リアクトル始動方式のように古くから使われている技術も、その確かな信頼性とシンプルさから、これからも私たちの生活や産業を支え続けていくはずです。新しい技術と従来の技術、それぞれの特性と注意点を理解し、モータの用途やコスト、求められる性能に合わせて適切に使い分けることが、これからのエンジニアに求められる重要なスキルです。




