モータ保護の守護神:モータ・リレーとは?
私たちの関わる工場やプラントで稼働する三相交流モータ(誘導電動機)は、産業活動の「心臓」とも言える重要な設備です。しかし、このモータが運転中に「欠相」、つまり三相のうち一相の電源が失われる状態になると、モータは重大なダメージを受けます。最悪の場合、焼損しプラント全体の停止につながりかねません。この致命的なトラブルからモータを守る役割を担っているのが、モータ・リレーです。
モータ・リレーは、単なる過負荷(1E)保護だけでなく、電源の喪失や三相間の電流・電圧が不揃いになる不平衡状態による欠相(2E)や、逆回転の反相(3E)の保護が可能になります。モータが損傷する前に電源を遮断する、いわば「モータの守護神」なのです。
本記事では、このモータ・リレーが、一体どのような電気的原理に基づいて欠相を検出しているのかを深く掘り下げます。さらに、現代の電気設備で増えているインバータや整流器を含む回路でなぜ誤動作が起きやすいのかを解明し、T係長が現場で出会った事例をもとに、技術者が現場で直面するであろうトラブルと、その確実な解決策を提案します。
欠相検出リレーの動作原理:DC・AC成分のバランスを監視せよ
この記事で取り上げるモータ・リレーはオムロンの「SE」シリーズとします。現場でもよく見る機器の一つです。T係長的には、この手の保護装置はパネルマウント(制御盤の盤面に取り付けられること)が多いにも関わらず、プラグインタイプも選択可能なところが好きです。このモータ・リレーは、電気の「波形」を分析することで、モータの異常を判断しています。その核となる検出原理を、順を追って解説します。なお、過負荷や欠相、反相については下記の記事で詳細に解説しています。
三相電流から直流信号への変換プロセス
SE モータ・リレーは、モータに流れる三相電流を検出するため、カレント・コンバータ(変流器)を使用します。適用電流範囲によってSET-3A(1~80A)とSET-3B(64~160A)の2つがあります。負荷電流の大きさに合わせて選定します。これを用いて、SE モータ・リレーに電流値を取り込みます。カレント・コンバータに取り込んだ三相交流電流は、まず全波整流され、直流電圧信号へと変換されます。整流後の信号は、平滑化回路を通ることで、波形の平均値(DC成分)に相当する安定した直流電圧信号に変換されます。これが、モータが健全に運転している際の「基準値」となります。そして、整流後の信号には、平滑化しきれなかった小さなリップル成分(交流成分、AC成分)が残ります。このAC成分は、電源波形の歪みや不平衡の度合いを示す重要な指標となります。
健全時と異常時の「バランス」変化
モータが健全に運転し、三相電流が均一(平衡)である場合、整流された直流信号のDC平均値とAC成分(リップル)のバランスは、常に一定の比率を保ちます。ところが、欠相が発生したり、三相電流が大きく不平衡になったりすると、このバランスが劇的に崩れます。出力波形に交流成分が大きい状態を、SE モータ・リレーは仮の欠相状態と判定して、警報を出します。
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誤動作の落とし穴!現場で良く出会う事例と解決策
SE モータ・リレーは非常に優れた保護装置ですが、現代の多様な電気設備環境においては、モータが正常運転しているにもかかわらず、「欠相」と誤動作してしまう事例が実は後を絶ちません。保護装置において「不要動作をしないこと」、「事故時に確実に動作すること」という2方向での「信頼性」は絶対に外せない条件ですが、誤動作は決してゼロにはできないのもまた事実です。そして、その対策究明のために駆けずり回り、報告書を作成する手間も膨大です。そこで、ここでは、T係長も出会った事例をもとに、現場で遭遇しやすい誤動作の事例と、その具体的な対策を解説します。
事例 1:インバータでの波形歪みによる誤検出
原因:高調波による波形歪み
最も一般的な誤動作の原因は、インバータを含む回路での使用です。この回路では電流・電圧波形に高調波と呼ばれるノイズを発生させ、波形を大きく歪ませます。SE モータ・リレーは、この歪んだ電流を全波整流すると、健全な運転状態であってもAC成分(リップル)が異常に大きくなってしまいます。その結果、「DC平均値に対するAC成分の比率」がしきい値を超え、「欠相」と誤判定してしまうのです。
解決策:そもそも使用しない
取説にも記載がありますが、インバータ負荷にはこのモータリレーは適応不可です。インバータの場合には、そもそもインバータ自体に過負荷や欠相のアラーム機能が備わっています。こちらを使用すれば、十分に保護が可能です。
事例 2:軽負荷運転時の極端な電流不平衡
原因:軽負荷時の検出感度の上昇
モータが軽負荷で運転している時、各相電流の絶対値が小さくなります。この状態で、モータ自体の特性や配線のわずかな抵抗差などにより、三相電流に極端な不平衡が発生することがあります。例えば、定格100Aのモータが軽負荷で運転し、各相に10A、7A、5Aの電流が流れたとしましょう。
不平衡率の計算(オムロン式):
不平衡率[%]= \( \displaystyle\frac{最大電流 – 最小電流}{最大電流} \times 100 \)
= \( \displaystyle\frac{ 10 – 5 }{ 10 } \times 100 \)
= 50[%]
この不平衡率 50% は、リレーの設定が高感度(H感度:動作しきい値 約35%)に設定されていると、欠相と誤判定されることとなります。実際には、軽負荷になっているだけで、それほど大きな異常値ではありません。R、S、T相は完全に一致しないことは普通なので、気にも留めないので、T係長も初めてこの誤動作に出会ったときには、先輩技術者に教えてもらうまで原因も解決策も全く分からず仕舞いでした。
解決策:感度設定の変更と機能の無効化
感度設定の切り替え: SE モータ・リレーの欠相感度設定を「低感度(L感度:動作しきい値 約65%)」に切り替えることが有効です。これにより、極端な不平衡状態でも、よりシビアな異常時のみ動作するように調整できます。
| 欠相感度設定 | 不平衡率(しきい値) | 動作タイミング | 用途の推奨 |
| H感度(高感度) | 約35%±10% | 約2秒以下 | 不平衡を極度に嫌う設備。新しい設備や設計に余裕のある環境。 |
| L感度(低感度) | 約65%±10% | 約3±1秒 | 波形歪みや軽負荷運転などで不平衡が発生しやすい環境。誤動作防止を優先する場合。 |
上記の計算例では不平衡率 50% でしたので、H感度に設定されている場合は欠相と判定されますが、L感度に設定されている場合は欠相とは判定されないことになります。
軽負荷運転時のみ検出OFF: どうしても軽負荷運転が必要な場合、軽負荷時には欠相検出機能を一時的にOFF(解除)にする制御を組むことも検討します。ただし、この方法は軽負荷時に保護が失われるリスクがあるため、現場の状況を考慮し、他の保護(過電流など)が生きていることを確認の上、慎重に適用すべきです。T係長としては、避けたい方法です。
電圧不平衡を検出する: どうしても軽負荷で運転せざるを得ないような場合には、SE モータ・リレーを「過負荷」のみで使用し、欠相保護は、別途電源側の不足電圧検出装置などで監視し、負荷を切り離す回路とするのが良いでしょう。そもそも、2E検出迄が求められる負荷かどうかもふまえて再検討すれば、設備投資も最小限に抑えられる可能性もあるでしょう。
事例 3:リレー動作したはずだが、履歴が不明
原因:系統側の瞬時電圧低下
監視室でお茶をしていると、故障でのモータ緊急停止が発報しました。現場にT係長がかけつけると、制御盤の盤面には「故障」ランプが点灯していました。扉を開けて機器の状態を確認すると、ブレーカはトリップしていませんでした。また、地絡継電器も不動作でした。補助継電器を確認すると、SE モータ・リレーが動作したようです。本来、SE モータ・リレーが動作した場合には機器の前面のランプが点灯するはずです。しかし、SE モータリレーにはその表示が出ていません。
この季節は真夏の夕方16時ぐらいでした。この時、ちょうど現地は激しい雷雨に見舞われていたそうです。T係長は、原因をこの時の落雷による系統側の不平衡電圧によるものだと結論付けました。その根拠の一つに、SE モータリレーの動作履歴は消えていたことがあります。「動作履歴が残らないのは、制御電源を喪失した場合のみだ」とメーカの技術相談窓口の回答も得ていました。系統全体にとっては大したことのない電圧不平衡だったとしても、先述の軽負荷と複合的に絡み合った結果、この誤動作が起きたと総合的に判断しました。
解決策:慌てない。正しい知識を習得しましょう。
自然災害によって、偶発的かつ不可避的に発生する現象も存在します。その時に、正しい知識を身習得し、しっかりと説明できるようにすることが、私たち電気エンジニアに求められる力です。無駄な原因究明に力を尽くすべきではありません。
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まとめ:知識と設定でモータの「守護神」を使いこなす
本記事では、三相モータを焼損から守る「守護神」、SEモータ・リレーの奥深い世界を探求しました。このリレーが、カレント・コンバータで取り込んだ電流を全波整流し、DC成分(基準)とAC成分(変動)のバランスを監視することで、欠相や不平衡といった質の高い異常を検出していることがお分かりいただけたかと思います。
特に、T係長の現場事例を通じて、保護装置の信頼性を揺るがしかねない誤動作が、いかに現代の電気設備と密接に関わっているかを解説しました。インバータ回路での高調波による誤検出、軽負荷運転時の不平衡率の相対的な上昇、さらには系統側の瞬時電圧低下といった、一見するとリレーの不具合に見える現象も、その動作原理と特性を理解すれば、論理的に原因を特定し、適切な対策を講じることが可能です。
最も重要な対策は、「原理に基づく適切な設定」です。軽負荷が多い環境では、計算した不平衡率と照らし合わせ、感度設定を「H(高感度)」から「L(低感度)」へ切り替えるだけで、不必要な停止を回避できます。また、インバータのようにリレーの適用範囲外の負荷に対しては、内蔵保護機能を利用するなど、機器の選定段階から適合性を見極めることが不可欠です。
保護装置は、ただ設置するだけでなく、その「心臓」たる検出原理を理解し、現場の環境に合わせて調整することで、初めて真価を発揮します。私たち電気エンジニアには、現象に慌てず、確かな知識に基づいてトラブルを解決し、安定稼働を確保する力が求められています。本記事が、あなたのモータ保護設計と現場でのトラブルシューティングの一助となれば幸いです。


