電験三種理論:過渡現象「L/R時定数」は、シーケンス回路の動作遅延で学ぶ!

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はじめに

電気理論で登場する「L/R時定数」は、教科書の中だけの存在ではありません。私たち電気エンジニアが日々格闘しているプラント制御盤のシーケンス回路の中でも、リレーやタイマの動作遅延、復帰時間に、実は深く関係しています。電験三種で問われる過渡現象の理解は、現場での「なぜこのリレーは反応が遅いのか」、「なぜ信号が一瞬落ちるのか」、「なぜチャタリングするのか」といった疑問の答えを見つける力になります。また、机上デバックの段階でも「このシーケンス回路は上手いかないぞ!」という視点を得られ、実際に動かして発生する不具合を未然に防ぐことができるようにもなります。本記事では、L/R時定数の計算から始め、実際のリレーやタイマを例に、その実務的な意味を掘り下げます。


L/R時定数の基礎

直流回路でインダクタンス L [H] のコイルと抵抗 R [Ω] が直列になっているとき、電源を投入しても電流は瞬時に最大値に達しません。これは、コイルが電流の変化を妨げる「電圧を生む」性質を持つためです。回路方程式は
 \( L\displaystyle\frac{di}{dt}+Ri = V \)
で表されます。
定常電流:\(I_{\infty}=\displaystyle\frac{V}{R} \)、時定数:\( \tau = \displaystyle\frac{L}{R} \)
が得られます。また、電流の時間変化は指数関数的に増加し、次式で表されます。
 \( i(t) = I_{\infty} (1 – e^{-t/\tau}) \)

私たち現場の電気エンジニアは、難しいことは脇に置いて、この式の意味を直感的に理解することが重要です。t=τ(1時定数)の時点で電流は最終値の約63%、3τで約95%、5τでほぼ100%に到達します。つまり、τの値が大きいほど電流の立ち上がりは遅く、回路の応答もゆっくりになるということです。上記は直流を例にして説明をしていますが、交流でもやや複雑になることを除けば、基本的な考え方は同様です。リレーやタイマの励磁や復帰にも、この「時定数」の影響が確実に現れます。

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数値例:10msの時定数が示す時間感覚

たとえば、L = 5720[mH](5.72[H])、R =636[Ω]、電源電圧 DC 24[V]の直列回路を考えてみましょう。L/R=5.72÷636=0.009[sec]、つまり時定数τは約10msです。定常電流は V/R = 37.7[mA](0.0377[A])です。1τ(10ms)経過すると電流は約24[mA](約63%)に達し、3τ(30ms)で36[mA](約95%)、5τ(50ms)でにほぼ定常電流37.7[mA]となります。

一般的な電子機器の動作電圧は80%程度ですから、この回路は、通電後20ms程度で安定した挙動を示すということですね。この「20ms」という時間は、実際のリレーの制御動作と同じオーダーであり、理論値が現場挙動と直結することがわかります。

最後に種明かしをしておくと、今回使用したインダクタンスL、抵抗Rは、オムロンのMYシリーズのあるDC24Vリレーのカタログ値です。私たちが懸命に勉強している電験三種の知識がそのまま、実務に直結する証左です。


シーケンス回路における実務的意義

現場では、リレーやタイマの応答時間の差が、動作順序の乱れや誤動作を引き起こすことがあります。特に、コイルを含むリレー回路ではL/R時定数による過渡遅延が隠れた原因となる場合が多いのです。

たとえば、制御盤でよく使われるオムロンの MY4Nリレー は、定格電圧 DC24[V]、コイル抵抗が662[Ω]、コイルインダクタンスが5.72[H]です。従って、L/R=5.72/662=0.009sec、つまり時定数は約10msになります。先述の通り、動作時間約20msになります。また、復帰時間(OFF動作時間)約20msです。ここで、もし配線が長くなり抵抗が増えたり、サージ抑制のためのサプレッション回路があったりすると、L/Rの比が変化して動作特性に差が出ます。わずか数ミリ秒のずれが、シーケンス動作の順序を狂わせることもあるのです。

さらに、オムロンの H3CR-A8タイマを組み合わせた場合を考えます。H3CR-A8はソリッドステート式(無接点式)というコイルが無いものなので、LやRについては考えません。それでも、接点の動作時間や復帰時間についての理解は重要です。タイマの動作時間はおおむね タイマ設定時間±0.2% です。また、復帰時間は 0.1sec 以下です。後述しますが、タイマの復帰時間の方が遅いということが、シーケンス回路を作成した場合に問題を起こす事例を、T係長はたびたび経験をしています。

このように、L/R時定数は「理論上の定数」ではなく、「リレーがいつ実際に動くか」を考えるための、実務上に非常に重要なものでもあるのです。このような場合には、リレーのb接点を使用するのではなく、タイマ接点などで0.1secの復帰より遅くするなどの対策が有効です。


サプレッション回路と時定数の関係

リレーや電磁弁のコイルには、遮断時の逆起電力(異常電圧)を抑制するために「サプレッション素子」が付けられることが多いです。最も一般的なのがダイオードですが、ダイオードによって、逆起電力をクランプすると電流の減衰がゆっくりになり、復帰時間が延びるという副作用があります。リレー程度ではあまり気にすることはありませんが、コンタクタ(MC)などの主回路の入切を行うような場合には少し注意した方が良いでしょう。

ダイオードの取り付けによって、L/R時定数に基づく放電速度が変化するために上記の動作時間んの遅延が発生します。L(インダクタンス)は固定ですが、Rの経路が変化し、電流がダイオードの順方向電圧(約0.7V)で制限されるため、指数関数的にゆっくり減衰してしまうのです。つまり、サージ対策と応答速度はトレードオフの関係にあり、L/R時定数を理解しておくことで「どこまで応答遅延を許容するか」を合理的に判断できるようになるのです。


トラブル事例と対応策

T係長が、かつて経験した制御盤のトラブルでは、搬送機の連動回路をハードシーケンス(PLCではなく、リレーやタイマを駆使して組む)制御盤で発生したものです。詳細は伏せますが、順次運転する搬送機の一部を、現場の判断でタイマに変えたことが原因だったのですが、下図の②ラインが先に入って欲しいのに、①ラインが先に入ってしまうことになったのです。

不具合事例:Aはリレー、Bはタイマ

対策として、リレーのb接点ラインをタイマのa接点に変えて、タイミングの問題を解決しました。このような事例は珍しくなく、シーケンス回路を単純に追うだけではなかなか回避できない例です。L/R時定数に対する、私たち電気エンジニアの深い理解が必要になることを痛感した事例でした。

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過去問題で確認!電験三種 2005年 理論 問9(改)

図のように,抵抗RとインダクタンスLのコイルを直列に接続した回路がある。この回路において,スイッチSを時刻 t=0 で閉じた場合んい流れる電流及び各素子の端子間電圧に関する記述として,間違っているものは次のうちどれか。理由も答えよ。

(1) この回路の時定数は,Lの値に比例している。
(2) Rの値を大きくするとこの回路の時定数は,小さくなる。
(3) スイッチSを閉じた瞬間(時刻 t=0 )のコイルの端子間電圧\(V_L\)の大きさは,零である。
(4) 定常状態の電流は,Lの値に関係しない。
(5) 抵抗Rの端子間電圧\(V_R\)の大きさは,定常状態では電源電圧Eの大きさに等しくなる。

(3)が誤りです。電源投入直後はコイルLは電流を妨げる働きをしますので、端子間電圧\(V_L\)は電源電圧Eに等しくなります。

(1) 正しいです。\( \tau = \displaystyle\frac{L}{R} \)です。
(2) 正しいです。上記の式にR=1とR=100を入れてみると明らかです。
(4) 正しいです。定常状態ではLは銅線と同じ(電流を妨げない)と扱えます。
(5) 正しいです。(4)と同様です。EとRのみの回路と同一視できます。


まとめ

L/R時定数は、理論の世界と実務の世界をつなぐ非常に重要な概念です。数値上は単純な比で表されますが、実際にはリレーやタイマの動作遅延、サプレッションの影響など、現場の挙動に直接影響します。オムロンのMY4Nような汎用リレーも、その中に確実に「L/Rの遅れ」を内包しており、数十ミリ秒の世界でシーケンス全体のタイミングを左右しています。これを理解することは、シーケンス回路の設計ミスを未然に防ぐ(机上デバッグ)だけでなく、サージ抑制素子導入による動作遅延といったトレードオフを合理的に判断する能力を養います。

電験三種を学ぶ段階でこの点を意識しておくと、試験問題を単なる計算ではなく「現場を動かす理屈」として理解できるようになります。単なる公式ではなく、「リレーがいつ動き、いつ復帰するか」を正確に予測するための、電気エンジニアの必須スキルとして、この知識を現場で活用しましょう。公式を覚えるだけでなく、その背後にある時間定数の物理的意味を想像できる力が、真に現場で使える技術者への第一歩です!

この記事を書いた人
T係長

30歳で制御設計の世界に飛び込み、未経験から10年以上にわたり、プラント設備の制御設計・更新・改造案件に携わってきました。これまで100件を超える現場経験を通じて、設計図面から制御盤、シーケンス制御、保護協調まで幅広い電気技術を磨いてきました。
保有資格は「第二種・第三種電気主任技術者」「第二種電気工事士」「基本情報技術者」。資格の枠にとらわれず、現場で困っている人を助けられる技術者であることを大切にしています。
このブログ「誠電気設計」では、初心者や若手エンジニアの方にもわかりやすく、実務に役立つ知識を共有しています。学びを通じて、読者とともに成長し続けることを目指しています。

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