現場で迷わない産業ネットワーク入門|サイクリック通信・プロトコル等を整理する

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はじめに:なぜ通信プロトコルで困るのか?

現場で制御盤を据え付け、ケーブルをきれいに配線し、通信ポートも正しく結線したのに、機器同士がまったく通信しない。そんな経験をしたエンジニアは少なくないでしょう。電気的な接続や通信速度が問題ないにもかかわらず、データ通信ができない原因の多くは「プロトコル(ルール)の不一致」にあります。つまり、物理的にはつながっていても、データの「言語」が合っていないのです。

私たちプラントエンジニアが取り扱う制御システムの世界では、PLC・インバータ・センサなどの機器がそれぞれ異なる通信方式を採用しています。ケーブルの種類やコネクタの形が同じでも、通信プロトコルが異なれば、相手は信号を理解できません。たとえば、Modbusで話しかける相手にEtherNet/IPの言葉を投げても、相手は「何を言っているのか」理解できないということです。

この記事の目的は、こうした「通信が通らない」トラブル原因の前提となる「通信プロトコル」の概要を理解し、メーカやプロトコルが混在する現場でもスムーズに接続・設定・トラブル対応できるようになることです。ごちゃごちゃとしている産業用の通信プロトコルを理解することで、物理層(RS-485やEthernet)からアプリケーション層(CIPやPROFINETなど)まで、階層構造の概要を把握することで、問題の切り分けが自分自身で出来るようになります。


産業用通信の基礎知識【キーワード】

産業用通信プロトコルとは、単なるデータのやりとりではありません。機器が「どのように」、「どんなタイミングで」。「どんな内容を」送受信するかを定めた一連のルールを指します。
プロトコルが存在することで、機器メーカが違ってもデータの送受信が滞りなく行えるのです。通信を理解するうえで、まず押さえておきたいキーワードを解説しておきましょう。

マスタ/スレーブ(クライアント/サーバ)

私たちプラントエンジニアには最もよく見るシステム構成の形と言えるかもしれません。通信の主導権を持つ側をマスタ(あるいはクライアント)、指示に従う側をスレーブ(サーバ)と呼びます。たとえば、PLCがマスタとしてセンサやリモートI/Oからデータを読み出しています。もっと単純に言えば、CPUがあるのがマスタ側です。また、近年は双方向でマスタの機能を持つような通信であるUARTユーアート(Universal Asynchronous Receiver Transmitter/汎用非同期式送受信)も可能になっています。

I/Oデータとパラメータ設定

通信で扱うデータには大きく2種類があります。ひとつはリアルタイムで入出力を監視・制御するI/Oデータ、もうひとつは機器の動作条件を変更するためのパラメータ設定です。I/Oデータはミリ秒単位で周期的にやり取りされ、PLCスキャンと連動して動作します。一方、パラメータは機器の初期設定や保守時に非周期的に送信されます。設定値を変更したり、タイマの秒数を設定したりも含まれます。PCやタッチパネルで変更することが多いでしょう。

サイクリック通信(周期通信)とアサイクリック通信(非同期通信)

多くの産業用ネットワークは、周期的に通信を繰り返す「サイクリック通信」を採用しています。
たとえば後述するPROFINET RTやEtherCATは、数ミリ秒ごとに同じI/Oデータを更新し、リアルタイム性を確保します。これに対し、「アサイクリック通信」はアラームやパラメータの変更など、不定期な情報をやり取りするために使われます。たとえば、温度計の異常信号やモータのエラー情報など、必要なときにだけ送られるのがアサイクリック通信です。

シリアル通信とパラレル通信

通信方式を理解する上で、押さえておきたいのが「シリアル通信」「パラレル通信」の違いです。どちらもデジタルデータを機器間でやり取りするための手段ですが、その送信の仕組みが根本的に異なります。パラレル通信は複数の信号線を使い、例えば8ビットのデータを8本のラインで同時に送信します。つまり、一度に多くの情報を送ることができるため、高速通信が可能というメリットがあります。しかし、信号線ごとに伝送タイミングを揃える必要があり、配線距離が長くなると信号のずれが問題になります。そのため、パラレル通信は主に基板内や装置内部など、短距離・限定的な用途で採用される傾向にあります。

一方のシリアル通信は、1本または数本の信号線でデータをビット単位に順番に送信します。1ビットずつ送るため転送速度は一見遅そうに見えますが、信号線が少ない分だけノイズ影響を抑えやすく、ケーブルコストも安く抑えられます。RS-232CやRS-485、Modbus RTUといった通信方式はこのシリアル通信の代表例であり、産業現場では機器同士を数十メートルから数百メートル離して設置することも珍しくありません。つまり、長距離伝送や装置間通信においては、パラレルよりもシリアル通信が圧倒的に有利なのです。

現代の産業ネットワークでは、Ethernetなどの高速通信でも内部的にはシリアル伝送技術が用いられています。パラレル通信は内部処理、シリアル通信は外部伝送という形で、両者は目的に応じて使い分けられ、共に制御システムを支える重要な役割を担っています。

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主要国際オープン・プロトコル紹介

産業用ネットワークの世界では、メーカ独自の通信規格だけでなく、国際的に広く採用されている「オープン・プロトコル」が数多く存在します。この規格に則った形で独自規格を構築するのが基本です。ここでは代表的なModbusとEtherNet/IPを中心に、現場でよく遭遇するポイントを解説します。

Modbus(RTU/TCP/ASCII)とは

Modbusは1970年代に米国のModicon(現:シュナイダーエレクトリック)が開発した、最も古典的でありながら今なお現役の通信プロトコルです。シリアル通信(RS-485)を使うModbus RTU(Remote Terminal Unit)と、Ethernetを使うModbus TCP/IP、データを文字形式で扱うModbus ASCII(アスキーツー)の3種類があり、いずれもマスタ/スレーブ方式で通信を行います。

RS-485を使うRTUは配線がシンプルで、長距離通信(1.2km程度が限界ですが)に強く、工場のリモートI/O制御などに向いています。一方で、通信速度はやや遅く、ノード数が増えるとスキャン時間が延びるという欠点があります。これに対してEthernetベースのTCPは、既設ネットワークを流用でき、データ転送速度も速いため、近年は監視系やSCADA通信に多く用いられています。ちなみにASCII形式は殆ど見ることがなくなりました。T係長も5年ぐらい前にリプレースで見たぐらいかもしれません。

注意したいのは「エンディアン問題」です。16bitや32bitデータのバイト順序(ビッグエンディアン/リトルエンディアン)が異なる機器を接続すると、数値が入れ替わって誤動作することがあります。たとえば温度値が「25.3℃」のはずが、通信先で「0.003E5」のような異常値になるケースです。この場合、通信ソフトやPLC側でバイトスワップ(入れ替え)設定を行うことで解消できます。エンディアンの違いを理解しておくことは、Modbusを扱う上での必須知識です。

EtherNet/IPとは

EtherNet/IPは、米Rockwell Automationを中心に策定されたCIP(Common Industrial Protocol)をベースとした産業用Ethernetです。CIPは「データの表現方法と通信オブジェクトの共通化」を目的としており、メーカーが違っても共通のデータ構造で情報交換できる点が最大の強みです。
つまり、異なるベンダーの機器を同一ネットワーク上に共存させやすい仕組みになっています。

EtherNet/IPの通信は、サイクリック通信でI/Oデータをリアルタイムに転送しつつ、非同期通信でパラメータ変更や診断も可能です。そのため、制御系と情報系の橋渡しを担うネットワークとして広く利用されています。

実際の設計で重要なのはIPアドレスとサブネットマスクの管理です。ネットワーク上でデバイスが重複アドレスを持つと通信エラーが発生し、システム全体が不安定になります。特に複数のベンダー機器を混在させる場合、アドレス設計を図面上で明確にし、機器ごとに設定範囲を固定しておくことがトラブル防止の基本です。


主要メーカ規格を比較しよう

オープンプロトコルが普及する一方で、各メーカは自社PLCや制御機器に最適化した独自の通信規格を展開しています。これらのメーカ規格は、同一メーカ製品同士での親和性が高く、システム構築が容易というメリットがあります。ただし、異なるメーカーの機器を混在させると、通信互換性が課題となる点は理解しておく必要があります。基本的には同一メーカでそろえたいですが、そうもいかない場合もあります。それぞれの特徴を理解しておきましょう。

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シーメンス:PROFIBUSとPROFINET

シーメンス社の制御システムを語る上で欠かせないのが「PROFIBUS」と「PROFINET」です。どちらも同社が中心となって普及させた産業用通信プロトコルですが、採用している物理層や通信方式が大きく異なります。両者は全くの別物です。まず、PROFIBUS(Process Field Bus)はRS-485ベースのシリアル通信で、1990年代以降に世界中の工場で広く使われてきました。主にFA機器や計装機器を接続し、マスタ(PLC)とスレーブ(I/O機器)が順番にデータをやり取りする「サイクリック通信」を採用しています。配線はツイストペアケーブル(紫色の2芯シールド)を使い、最大伝送距離は数百メートルから1km程度です。ノイズ耐性に優れ、リアルタイム制御にも十分な性能を発揮するため、今日でも現場で多くの稼働実績があります。

一方、PROFINET(Process Field Network)はEthernetをベースとした後継規格であり、物理層はRJ45ケーブル(緑色のLANケーブルみたいなもの)を使用します。従来のITネットワーク技術を活かしつつ、産業用としてリアルタイム性能を強化している点が特徴です。通信方式は「RT(Real-Time)」と「IRT(Isochronous Real-Time)」の2種類があり、RTは一般的な制御用途、IRTはモーション制御など高精度な同期が求められる用途に最適です。さらに、ネットワーク構成の柔軟性が高く、スター型やライン型、リング型など、装置構成に合わせて容易に設計できます。

総じて言えば、PROFIBUSはフィールド機器との信頼性重視の有線シリアル通信PROFINETはEthernetベースの高速・柔軟な通信です。工場のデジタル化が進む中で、PROFINETは上位システムとの統合やIoT対応に優れていますが、既設設備との互換性や安定性の面ではPROFIBUSが依然として強みを発揮します。現場では両者を共存させるケースも多く、シーメンス製のPLC(NX)はこの両規格をシームレスに扱える点が大きな強みとなっています。

三菱電機:CC-Link IE(Control/Field)

国内の製造業で圧倒的な普及率を誇るのがCC-Link IEです。三菱電機を中心に普及しているCC-Link IEは、Ethernetベースで1Gbpsの高速通信を実現する点が特徴です。しかし、CC-Link IEと一口に言っても、用途に応じてControlFieldの2種類が存在します。両者は「どの層で何を制御するか」に注目すると理解しやすくなります。

まず、CC-Link IE Controlは「コントローラ間通信」に特化したネットワークです。複数のPLCや制御装置、上位制御システム同士を結び、工場全体の同期やデータ共有を行います。制御階層の「上流」を担うイメージで、ライン全体の制御や、生産設備全体での動作統一が必要な場面に適しています。リング構成により冗長化が容易で、万が一の断線時でも通信を維持できる点は大規模プラントでの安心感につながります。

一方、CC-Link IE Fieldは、「I/O機器やサーボ、インバータ」といったフィールドデバイスとの接続を担います。制御器(PLC)から、実際に動作する末端機器までリアルタイムでデータを循環させるためのネットワークです。特にサーボ制御においては、モーション同期に必要な速度・応答性を十分に確保できる点が評価されており、加工機や搬送設備など、動作の正確性が要求される設備で多く採用されています。

また、TSN(Time-Sensitive Networking)に対応したCC-Link IE TSNでは、ControlとFieldの概念を統合し、汎用通信とリアルタイム通信の共存が可能になります。従来の16倍の高速処理が可能です。2019年以降に登場した新しい規格です。これからますます普及していくことでしょう。

オムロン:EtherNet/IP EtherCAT DeviceNet CompoNet

オムロンの制御システムでは、用途に応じて複数の産業用ネットワーク規格を使い分けます。同じ「Ethernet」や「フィールドネットワーク」といっても、求める制御速度や規模、接続する機器の階層によって最適解は異なります。ここでは、代表的な4種類である EtherNet/IP、EtherCAT、DeviceNet、CompoNet を、現場での使いどころを意識しながら整理します。

まず、EtherNet/IPは汎用Ethernetの仕組みを活用したオープンネットワークで、上位制御・装置間通信に強みがあります。制御用プロトコル(CIP)をベースとしており、変数(タグ)を直接扱うことでプログラムの可読性が高まるのが特徴です。10ms周期で数万点規模のデータリンクが可能なため、ライン全体の状態監視や装置間データ連携に適しています。異メーカー製品との相互接続性が高く、近年では設備更新時の「共通言語」として採用が進んでいます。

一方、EtherCATは高速性を徹底的に追求したネットワークで、サーボ制御や多軸同期が必要な設備で真価を発揮します。スレーブ機器がパケットを“通過処理”する方式のため、遅延が非常に小さく、100軸を超えるサーボをサブミリ秒オーダーで同期制御できます。加工機・ロボット・搬送装置など、装置性能が生産性に直結する現場では、EtherCATの有無が設備能力を左右するといっても過言ではありません。

DeviceNetは、I/Oやリレー、セーフティ機器などを手軽に接続できるネットワークです。1つのネットワーク上で安全制御と通常制御を共存できるため、小~中規模ラインで構成がまとまりやすい点が評価されています。最大64ノードまで接続でき、既存資産が多い工場では今も現役です。

最後に、CompoNetはセンサ・アクチュエータなどの「現場最前線」を結ぶネットワークです。分岐構成の自由度が高く、小点数を多地点に分散設置する場合に向いています。汎用ケーブルを使えるため、配線コストを抑えながら大規模なデバイスネットワークを構築できる点が特に強みです。

国内メーカー間連携を支えたFL-net

国内のPLCネットワーク技術の流れを振り返る上で、FL-netは欠かせない存在です。FL-netは日本電機工業会(JEMA)を中心に策定された通信規格で、もともとは「メーカーが異なるPLC同士をつなげない」という現場の切実な悩みから生まれました。国内大手PLCメーカーが共同で利用できる「共通言語」としてFL-netが開発され、FA分野で普及しています。

しかし近年、状況は大きく変わっています。三菱、オムロン、キーエンスといった主要メーカーが、それぞれEtherNet/IPを標準的にサポートするようになり、異メーカー接続のハードルは大幅に低下しました。その結果、FL-netを新規で採用する場面は以前より減っているのが実情です。

とはいえ、FL-netが完全に役割を終えたわけではありません。例えば富士電機や日立製のPLCなど、既設ラインでFL-netが使われているケースでは、今も堅実な選択肢となり得ます。つまり、FL-netは「最新技術」ではなく、既存設備の継続性と互換性を重視した現実的なネットワークとしてとらえるのが良いでしょう。

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まとめ

産業用ネットワークは、単に機器同士をつなぐ「ケーブルの問題」ではありません。通信プロトコルという「言語」が合っているかどうかが、システムが正常に動作するうえでの大前提になります。現場で通信がうまくいかないケースの多くは、電気的な結線や配線の品質よりも、プロトコルの考え方や設定の理解不足が原因です。つまり、何が「上位通信」で、どれが「フィールド通信」で、どのデータが周期通信なのかを整理できるだけで、トラブルの切り分けは大幅にスムーズになります。

メーカーや機器ごとに通信方式が異なるのは事実ですが、根底にある概念は共通しています。I/Oデータは周期的に流れ、パラメータは必要時に送る。マスタが主導し、スレーブが応答する。その基本構造を理解できれば、ModbusであれEtherNet/IPであれ、CC-Link IEであれ、本質的な操作・設定の考え方は大きく変わりません。

大事なのは「暗記」ではなく「整理」です。通信プロトコルを体系的に理解することで、現場でのトラブル対応スピードは確実に向上し、他社機器混在の設備でも、自信をもって設計・調整できるようになります。ここを押さえることが、プラントエンジニアとしての確かな強みにつながります。

この記事を書いた人
T係長

30歳で制御設計の世界に飛び込み、未経験から10年以上にわたり、プラント設備の制御設計・更新・改造案件に携わってきました。これまで100件を超える現場経験を通じて、設計図面から制御盤、シーケンス制御、保護協調まで幅広い電気技術を磨いてきました。
保有資格は「第二種・第三種電気主任技術者」「第二種電気工事士」「基本情報技術者」。資格の枠にとらわれず、現場で困っている人を助けられる技術者であることを大切にしています。
このブログ「誠電気設計」では、初心者や若手エンジニアの方にもわかりやすく、実務に役立つ知識を共有しています。学びを通じて、読者とともに成長し続けることを目指しています。

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