はじめに
下水処理や、工場排水処理、そして各種産業プロセスにおいて、汚泥濃度(MLSSやSS)の管理は施設の安定稼働と経済効率に直結する生命線と言えるでしょう。汚泥濃度計は、この管理をリアルタイムで行うための核心的な計器ですが、その種類は多岐にわたり、それぞれに特有のメリットとデメリットがあります。
この記事では、汚泥濃度計の主要な種類と測定原理を徹底解説し、現場で直面しがちなトラブル事例とその具体的な解決策を詳細にお伝えします。トラブルを未然に防ぐためのヒントがたくさんあります!
汚泥濃度計の基本:なぜ測定が必要なの?
汚泥濃度計は、主に水処理過程の浮遊物質(SS:Suspended Solid)の濃度を測定する機器です。ここでいうSSとは、水中に浮遊している不溶性の固形物全般を指し、上水処理や排水処理の最終水質管理で重要な指標となります。
一方で、活性汚泥法を用いた処理施設では、MLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)という特殊な指標が用いられます。MLSSは、曝気槽(微生物が有機物を分解する槽)の混合液中に含まれる浮遊物質のことで、その大部分は有機物分解の主役である微生物フロック(活性汚泥)です。つまり、MLSSはSSの一種ですが、特に活性汚泥の量を示すものであり、微生物の働き具合を管理するための核心的な指標となります。したがって、MLSS計は活性汚泥処理プロセスにおける微生物量の「濃度計」として不可欠なのです。そして、この測定が必要な理由は、主に三点あります。
第一に、最も重要なのが微生物管理です。曝気槽内のMLSS濃度は、有機物を分解する微生物の総量を直接示しています。この濃度が低すぎると、水質の浄化能力が不足し、処理水質の悪化や放流水基準の超過といった重大な不具合に直結します。逆に高すぎると、微生物が必要以上に増えすぎて酸素不足を引き起こしたり、後段の沈殿槽で沈降不良(バルキング)を引き起こしたりする原因となります。濃度計により微生物量を常に最適な範囲に保つことが、安定した水質を維持するための基礎となります。
第二に、沈降性・固液分離効率の確保です。処理された水をきれいに分離し、活性汚泥を循環(返送)させる沈殿槽において、適切なMLSS濃度管理は極めて重要です。MLSS濃度が不安定だと、汚泥の沈降速度や圧縮性が変化し、汚泥が沈まずに処理水に流れ出てしまう浮上・流出事故(キャリーオーバー)が発生します。これにより、処理水質が急激に悪化し、施設全体の機能停止につながることもあります。濃度計は、この沈降分離の効率を監視し、異常を早期に検知するために使われます。
第三に、後段の脱水・濃縮工程の最適化です。処理過程で発生した余剰汚泥は、脱水機で水分を除去し、最終処分されますが、脱水機に供給される汚泥の濃度が変動すると、脱水に必要な薬剤(高分子凝集剤など)の過剰投入や不足が発生します。薬剤が不足すれば脱水が不十分となり、薬剤が過剰になれば運転コストが無駄に増大します。濃度計を用いることで、供給濃度をリアルタイムで把握し、脱水剤の注入量を精密に自動制御することで、処理コストの削減と脱水効率の最大化を図ることが可能となります。
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汚泥濃度計の主要な種類と測定原理
汚泥濃度計の測定原理は、大きく分けて光学式と非光学式(超音波式、マイクロ波式)の3つに分類されます。測定対象となる汚泥の特性(色、粒径、気泡の有無)や、設置環境(高濃度、低濃度)によって最適な方式が異なります。
1. 光学式汚泥濃度計(透過光・散乱光方式)
光学式は最も普及しているタイプで、光と粒子の相互作用を利用します。その測定原理は、センサから発せられた光が、汚泥粒子によって吸収または散乱されることで減衰することに基づいています。この減衰した光(透過光)の量を測定し、検量線に基づいて濃度に換算する方法が透過光方式であり、主に低濃度域(沈殿槽の浮上汚泥監視など)の測定に適しています。一方で、センサから発せられた光が汚泥粒子に当たって散乱した光の量を検出する散乱光方式は、粒子の存在を直接的に捉えるため、中〜高濃度域の測定に適しています。
この方式のメリットは、構造が比較的シンプルで、幅広い濃度範囲に対応可能な点です。しかし、センサの測定窓に気泡や汚泥が付着すると、光路が遮断されて測定値が大きく狂いやすいという大きなデメリットがあります。また、汚泥の色度や粒径の変化に影響を受けやすいため、曝気槽(MLSS)や最終沈殿槽のSS濃度の測定に用いられる際は、自動洗浄機構が重要となります。
2. 超音波式汚泥濃度計
超音波式は、超音波を汚泥中に発信し、その減衰度を測定する非光学式の計器です。センサから発信された超音波パルスは、汚泥粒子が存在する媒体を伝播する際にエネルギーが減衰します。この減衰量の大きさが汚泥の濃度に比例することを利用して濃度を測定します。
超音波式のメリットは、光学式と異なり、汚泥の色度の影響を受けないことや、センサ表面の汚れの影響が比較的少ないことです。しかし、汚泥以外の気泡や固形物の混入にも敏感に反応するため、気泡が多い箇所では補正機能が必要となります。この特性から、濃縮槽、返送汚泥、または光学式では測定が困難な高濃度の汚泥ラインなど、汚泥の色が濃い現場で適用されます。
3. マイクロ波式汚泥濃度計
マイクロ波式は、特に高濃度の汚泥測定や、安定した連続測定が求められる分野で採用が増えている方式です。測定原理は、センサの電極間にマイクロ波を照射し、汚泥中の水分と汚泥粒子を通過させる際に生じるマイクロ波の位相差や共振周波数の変化を測定し、濃度に換算します。
最大のメリットは、測定部に可動部がなく、センサ表面の汚れや気泡の影響をほとんど受けないため、メンテナンスの手間が極めて少ないことです。高濃度(脱水機供給汚泥など)の測定で高い安定性を示すため、脱水機への供給汚泥ラインなど、流量と濃度の連続監視が必須な箇所で導入されます。ただし、他の方式に比べて高価になる傾向があります。
上記の検出原理と似ているのが濁度計です。気になる方は下記も合わせてご覧ください。
3. 現場で頻発するトラブル事例と解決策の詳細
汚泥濃度計の安定稼働には、測定原理に基づくトラブルシューティングが不可欠です。
事例 1:光学式における「ドリフト」と「極端な高値」
測定値が徐々に上昇する「ドリフト」や、突如として非常に高い値を示す場合、主な原因はセンサ窓の汚れか校正ミスにあります。特に高値を示すケースでは、汚泥や油分が測定窓に付着し、光路が遮断されている可能性が最も高いです。
この解決策として、まずは手動でセンサ窓を中性洗剤と柔らかいブラシで丁寧に清掃することが最優先です。自動洗浄ワイパーが付いている場合でも、その動作周期を見直し、洗浄頻度を上げる必要があります。次に、汚泥をサンプリングし、ろ過乾燥法などを用いて正確な濃度を測定します。この実測値に基づき、濃度計の指示値を合わせ込む再校正(キャリブレーション)を実施することで、精度のずれを解消します。オペレーションの肝はいつだって、校正なのです。
事例 2:気泡による測定値の「不安定な変動」
曝気槽の近傍や配管の合流部など、気泡が発生しやすい箇所で測定値が小刻みに変動する場合、汚泥自体の濃度変動ではなく、気泡の外乱が原因です。超音波式や光学式は、気泡の存在に敏感に反応し、これがノイズとなってしまうことが少なくありません。
このトラブルへの解決策は、まずセンサを気泡の少ない深部へ設置し直すか、センサ周囲に気泡を物理的に遠ざける気泡分離器(デフレクター)を設置することです。また、濃度計本体が持つダンピング機能(平均化時間設定)を活用し、応答速度を長めに設定することで、瞬間的な気泡によるノイズを平滑化し、安定した指示値を得ることができます。基本的にはダンピングが最も最初に取るべき策です。それでもなお改善できないのであれば、他の2つを検討しましょう。
事例 3:全方式共通の「ケーブル断線・浸水」
濃度計の表示が「エラー」になったり、測定値が急にゼロになったりした場合、センサ本体ではなくケーブルや接続部の異常を疑います。ケーブルが汚泥に漬かっている環境では、摩耗やネズミなどの動物によるかじり、コネクタのシール劣化による浸水が起こりやすいです。
解決策として、ケーブルコネクタを外し、浸水跡や錆がないか確認し、浸水していた場合は部品交換と徹底的な乾燥を行います。また、ケーブルの損傷が懸念される箇所には保護管(フレキシブルチューブなど)を取り付け、物理的な損傷を防ぐとともに、ケーブルが水中で張力を持たないよう、緩みを持たせて配線し直すことが重要です。
まとめ
安定した汚泥管理を実現するためには、用途と設置環境に合った濃度計を選ぶことが重要です。例えば、曝気槽のMLSS測定には、最も標準的で普及している光学式(散乱光)が適していますが、必ず自動洗浄機構を備えたモデルを選ぶ必要があります。最終沈殿槽の浮上汚泥監視のような非常に低い濃度域の測定には、検出感度の高い光学式(透過光)が求められます。
一方で、濃縮汚泥ラインのような高濃度環境では、光学式では飽和しやすいため、色度や汚れの影響が少ない超音波式やマイクロ波式が有利です。特に、脱水機への供給汚泥のような高精度な連続監視が求められる箇所には、最も安定性の高いマイクロ波式が推奨されます。
導入に際しては、まず測定箇所の汚泥濃度範囲、色、粒径、油分の混入度合いといった現場の汚泥特性を把握することが必須です。その上で、設置環境に応じて自動洗浄機構や気泡対策カバーの有無を確認し、必須装備と考えるべきです。さらに、濃度計が現場の実測値(ろ過乾燥法)に基づき、容易に校正できるインターフェースを持っているかを確認することも、日々の安定運用に欠かせません。
汚泥濃度計は、単なる測定器ではなく、水処理プロセスの制御器です。正しい原理を理解し、現場での小さな異常を見逃さずに対処することで、施設の長期的な安定稼働を確保することができます。
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