はじめに:プラントを動かす「設計図」P&IDをマスターしよう
プラントや工場で働く計装エンジニアにとって、最も重要でありながら、最も複雑に見える図面が「P&ID(ピー・アンド・アイ・ディー):配管計装図」です。P&IDは、プラントの配管系統、主要機器、そして計測・制御(計装)システムの接続関係を、標準化された記号で詳細に示した設計図であり、まさにプラントの心臓部と言えます。
この図面が読めなければ、設計の意図を理解することは難しく、現場でのトラブル対応や保全計画もスムーズに進みません。本記事では、このP&IDを構成する主要な3つの要素(機器・配管、計器シンボル、計器タグ)を具体的な例を挙げながら解説します。この記事を読めば、あなたも今日からP&IDをスラスラ読めるようになり、現場で迷うことはなくなります。さあ、プラントエンジニアとしての第一歩を一緒に踏み出しましょう!
P&IDとは?なぜプラントエンジニアにとって重要なのか?
P&IDは「Piping and Instrumentation Diagram」の略称で、配管と計装の詳細を一つの図面に凝縮したものです。P&IDは、建設段階では配管のルートや機器の設置場所を指示し、運転段階ではオペレーターが制御のロジックを確認し、保全段階ではトラブルの原因を特定するために使われます。
P&IDの「共通言語」を定める国際規格と国内規格
P&IDがプラントエンジニアリングの「共通言語」として機能するのは、世界共通の規格に基づいて記号やルールが標準化されているからです。この標準化が、設計者、建設業者、オペレーターの間で正確なコミュニケーションを可能にしていると言えます。
P&IDの作成・解読の根拠となる最も重要な規格は、アメリカのISA(International Society of Automation)が発行する ISA S5.1(Instrument Symbols and Identification) です。この規格が、計器のシンボル、タグ付け(英数字の組み合わせ)、信号線の表現方法など、P&IDの基本的なルールを定義しています。
日本では、これにほぼ準拠したJIS(日本産業規格)があります。具体的には、JIS Z 8204(プロセス計装用記号)が、計装機器の識別と表示、図記号に関する規定を定めています。また、配管やバルブの表現については、ISO(国際標準化機構)の規格なども参照されますが、実際にはお客様によって微妙に違います。おおむねの形は同じですが、本記事ではJISをベースにして解説を行います。
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P&IDを構成する3つの主要要素の読み方
【要素①】配管と主要機器のシンボル
P&IDは、流体の流れを左から右へ描くのが基本です。
- 配管と信号線:
- 太い実線は主配管を示し、その横には配管のサイズや流体の種類、材料が記載されます。
- 細い実践は計器とプロセスを結んだり、信号線などを表します。
なお、細い実践に斜線(60°傾斜)を組み合わせて信号線を表すこともあります。
信号の方向を表したい場合には矢印とすることもできます。 - 細い信号線にX(細管)やE(電気信号)、A(空気信号)、L(油圧信号)などの記号を組み合わせて信号の種類を表すこともできます。
- 主要機器:
- 機器は、実際の形状を模したシンボルで表されます。比較的現場機器の形に近いので、特に困ることはないでしょう。
- 重要なのが「バルブ(弁)」です。砂時計型(⋈)に、操作部(アクチュエータ)の記号が組み合わされて描かれます。代表的なものを見てみましょう。
| シンボル例 | 意味 |
![]() | 仕切弁 |
![]() | 玉形弁 |
![]() | 電動弁 |
![]() | 制御弁 |
![]() | 逆止弁 |
![]() | ダイヤフラム弁 |
【要素②】計器のシンボルと設置場所
計器は主に円で表されますが、その円の形状や内部の線によって、その計器がどこに設置されているのか、また物理的な機器なのかソフトウェア機能なのかがわかります。
| シンボル例 | 設置場所と意味 |
| 単独の円 | 現場設置計器:プラント内の機器近くに物理的に設置され、現場で確認や操作できます。 |
| 中央に実線入りの円 | 制御室設置計器:中央制御室のコントロールパネルに物理的に設置されます。 |
| 中央に実線入りの円+四角 (中央に実線入りの六角形の場合も有り) | 画面表示:分散制御システム(DCS)やPLCに取り込んだ情報をディスプレイに表示します。 |
| 中央に実線入りの菱形+四角 | 設定値:タッチパネルなどで設定値を変更可能です。 |
【要素③】計器タグ(計器番号)の読み方
P&ID上で最も特徴的なのが、円の中に書かれた「FIC-101」のような計器タグ(計器番号)です。これは、その計器の機能と所属する制御ループを一意に示すコードです。タグは基本的に「第一文字(測定量)」と「後続文字(機能)」、そして「ループ番号」の組み合わせで構成されます。
| タグの位置 | 機能 | 主な英字とその意味(例) |
| 第一文字 | 測定量 | F (Flow:流量) T (Temperature:温度) P (Pressure:圧力) L (Level:液位) D(Density:密度) |
| 後続文字 | 機能 | I (Indication:指示/表示) C (Control:制御) T (Transmitter:伝送) A (Alarm:警報) Q (quantity:積算) R (recorder:記録) Y(変換器) |
| 数字 | ループ番号 | 3桁程度のプラント内で一意の番号となります。 |
【具体例】
- PT-205:P (圧力) を T (伝送) する計器を表します。現場の圧力を測り、信号を制御室に送る「圧力伝送器」ということです。
- FIC-301:F (流量) を I (指示) し、C (制御) する計器を表します。流量を監視し、調節弁を操作して液面を一定に保つ「流量調節計」です。ワンループコントローラのようなイメージですね。
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実践!P&IDで制御ループの流れを理解する
P&IDを読む上での究極のゴールは、個々の機器や計器の記号を理解するだけでなく、それらがどのようにつながり、プラントを制御しているか、すなわち「制御ループ」を追跡することにあります。例えば、典型的な流量制御ループでは、P&ID上で以下のような流れを信号線で追うことができます。制御ループは1です。

- 測定: 配管に設置されたFT(エレメント挿入型の流量検出部)が流量を測定し、電気信号として流量調節計(FIC)へ入力します。
- 入力: FTから中央制御室のPLC(FIC)とワンループコントローラ(FIC)へ二重に入力されます。通常はPLCで流量調節を行い、PLC故障時のバックアップをワンループコントローラで行うよくある構成です。
- 出力1: FICから電気信号で変換器へ信号が送られ、弁の開度指令が空圧信号として出力(操作)されます。
- 出力2:制御弁の開度が調整されます(これは常時閉の回路です)。
このように信号線(破線など)を指でなぞりながら、測定 → 入力 → 制御 → 出力 の流れを追いかけることで、「もしこの流量が低下したら、制御システムはどのような動作をするのか?」といった設計者の意図まで深く理解することができるようになります。
まとめ:P&IDを読む力が、エンジニアとしての基礎力になる
本記事を通じて、プラントの設計図であるP&ID(配管計装図)の読み解き方を深く掘り下げました。P&IDは、配管系統、主要機器、そして計装システムの接続関係を、ISA S5.1やJIS Z 8204といった国際・国内規格に準拠した共通言語で表現しており、プラントエンジニアリングの現場では欠かすことのできない「羅針盤」です。
これらの個々の要素を理解した上で、最終的に目指すべきは、それらが信号線によってどのように結びつき、プラントを制御しているかという制御ループの流れを追跡することです。図面上で「測定 → 入力 → 制御 → 出力」という信号の道筋を辿ることで、単なる記号の羅列ではなく、設計者が意図したプラントの核心まで深く理解することができます。P&IDを読み解く力は、トラブル対応、保全計画、設計意図の把握の全てを可能にする、計装エンジニアとしての土台です。本記事で得た知識を礎に、現場で迷うことなく、自信を持ってP&IDを使いこなしましょう!







