はじめに
私たちが関わる工場やビルなどの高圧受電設備では、力率改善のために進相コンデンサが欠かせません。しかし、この進相コンデンサは「万能」ではなく、負荷が小さい状態、つまり無負荷や軽負荷運転時に電圧を上昇させてしまうという特性を持っています。
この電圧上昇は、変圧器や制御機器の定格電圧を超えるリスクを伴い、最悪の場合、絶縁劣化や誤動作、機器の寿命低下を引き起こします。特に休日や夜間のように負荷が少ない時間帯に、進相コンデンサが投入されたままになっていると、予期せぬ過電圧事故を招くことがあります。
この記事では、「なぜ電圧が上昇するのか」という原理から、「どの程度上昇するのかを計算する方法」、さらに電圧上昇の「防止策」までを、電気エンジニアのプロの視点でわかりやすく解説します。
なぜ無負荷・軽負荷時に電圧が上昇するのか?
進相コンデンサの役割と無効電力
進相コンデンサは、力率改善の主役として広く使われています。電動機や変圧器などの誘導性負荷は、電流が電圧よりも遅れる「遅れ無効電力を消費」します。これに対して、容量性負荷である進相コンデンサは「進み無効電力を供給」し、誘導性負荷によって流れる遅れ分を打ち消すことで、電源側からの無効電力供給を減らし、全体として電流を減少させます。この結果、電力損失の低減や力率の改善につながります。
軽負荷時の電圧降下と電圧上昇のメカニズム
前述の力率改善として有効であるというお話はあくまで負荷が存在する場合の話です。通常、負荷が大きいときは、負荷電流による電圧降下が支配的です。電線や変圧器のインピーダンスによって電圧が少し下がるため、受電点電圧は基本的に定格より低くなります。とは言え、発電所からの距離が近い場合など、6.7~6.9kV 程度の高め電圧となるケースもあるようです(T係長も数件出会ったことがあります)。
話を戻しましょう。通常は負荷電流による電圧降下が生じているはずですが、無負荷や軽負荷時には、負荷電流がほとんど流れません。このとき、進相コンデンサが供給する進み無効電力が系統に残り、受電点の電圧を押し上げてしまうのです。この現象は特に、変圧器やケーブルのインピーダンスが大きい小規模受電設備で顕著に現れます。
電圧上昇はどの程度許容されている?
では、電圧が少々するとして、どの程度の電圧上昇が許容されるのでしょうか。2つの視点で考えることが重要です。
① 電力会社(一般送配電事業者)の基準
電圧変動の許容範囲は、電気事業法施行規則・電気設備技術基準(JEAC 9701-2012)や、電力会社の供給規程に基づいて運用されています。高圧需要家(6.6kV受電)の場合、一般的には以下が目安となります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 常時電圧の許容範囲 | ±2%以内(例:6.47~6.73kV) |
| 一時的変動(瞬時) | ±5%以内(例:6.27~6.93kV) |
この範囲を超えると、電力会社の責任範囲外となるほか、他の需要家系統にも悪影響を与える可能性があります。したがって、進相コンデンサ投入時の電圧上昇は2%以内に抑えるのが原則です。
② 機器の定格電圧との関係
高圧機器(変圧器・進相コンデンサ・遮断器など)は、定格電圧の±10%程度まで耐えられる設計ですが、これはあくまで「一時的な過電圧」への耐性を示すものであり、「常時印加電圧」としては推奨されません。特に進相コンデンサは、定格電圧の105%を超える状態が継続すると誘電体が劣化し、内部発熱や絶縁破壊を引き起こす恐れがあります。したがって、常時運転でも受電電圧+2%以内とすることが望ましく、進相コンデンサ端子電圧が定格の110%を超えないよう管理することが重要です。※ここで端子電圧が110%となるのは直列リアクトル設置によるものです。
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無負荷時の電圧上昇を計算する近似式
基本となる電圧変動の近似式
電力系統の受電点における電圧変動は、次のような近似式で表すことは電験三種の必須知識です。
\( \delta V = \displaystyle\frac{PR+QX}{V} \)[p.u.]
P:有効電力[p.u.]
Q:無効電力[p.u.]
R:受電点抵抗[p.u.]
X:受電点リアクタンス[p.u.]
V:基準電圧[p.u.]
進相コンデンサは「進み無効電力」を供給するため、無効電力 Q はマイナス値として扱います。この符号を誤ると、電圧降下と上昇の関係が逆転してしまうため、注意が必要です。
無負荷時の進相コンデンサ投入による電圧上昇【簡易式】
先ほどの基本の近似式を今、私たちが直面している問題に当てはめて考えていきます。無負荷時・軽負荷時は有効電力 P=0 であると言えます。さらに通常は抵抗成分 R はリアクタンス分に比べて小さいため無視することも簡易計算においては問題ありません。以上より、電圧変動はおおよそ次式で表されます。
\( \delta V = \displaystyle\frac{QX}{V} \)[p.u.]
\( \delta V = QX \)[p.u.] ※ V = 1[p.u.] としています。
この式を使えば無負荷時の電圧上昇量を簡易的に求めることができます。
計算例①:6.6kV受電での電圧上昇
例として、6.6kV受電の工場を想定します。受電設備の主変圧器容量は500kVAです。高圧母線には設備容量100[kvar]の進相コンデンサ2台が設置されています。また、短絡容量は50[MVA](%Z=1%)です。全てリアクタンス分として計算します。
\( Q = \displaystyle\frac{100+100}{500} = 0.4 \)[p.u.]
\( X = \% Z \)[%] \(= 0.01 \)[p.u.]
したがって、求める電圧上昇は
\( \delta V = 0.4 \times 0.01 = 0.004 \)[p.u.]
\( \delta V = 0.4 \)[%]
前述の2%以内を満たしています。実際の6.6kVの系統では、たったの26.4Vの電圧上昇となります。では次のような例はどうでしょうか。
計算例②:6.6kV受電での電圧上昇
6.6kV受電の工場を想定します。受電設備の主変圧器容量は500kVAです。高圧母線には設備容量100[kvar]の進相コンデンサ2台が設置されています。また、短絡容量は10[MVA](%Z=5%)です。全てリアクタンス分として計算します。①の例と変化しているのは短絡容量です。この場合も同様に計算してみましょう。
\( Q = \displaystyle\frac{100+100}{500} = 0.4 \)[p.u.]
\( X = \% Z \)[%] \(= 0.05 \)[p.u.]
したがって、求める電圧上昇は
\( \delta V = 0.4 \times 0.05 = 0.02 \)[p.u.]
\( \delta V = 2.0 \)[%]
制限の2%ギリギリです。実際の6.6kVの系統では、132Vの電圧上昇です。コンデンサは突入電流が大きいので、突入での5%の条件を満たせなくなってしまう可能性もあります。基本的には尤度を見るので、これだと「無理です」と設備設計者としては判断するところでしょう。このように、進相コンデンサを設置する際には、系統側の情報もとても重要になるのです。
ちなみに、「高圧受電設備で短絡容量が10MVAなんてところがあるわけない」と思われる電気技術者の方もいるかもしれませんが、都市部ではなく地方の、変電所から遠い需要家だとありえなくは有りません。実際にT係長が過去に出会ったことがある数値です(設備容量的には全然違いますが)。
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無負荷時の過電圧を回避するための具体的な対策
自動力率調整装置(APFR)の導入
最も確実な対策は、自動力率調整装置(APFR)の導入です。APFRは、受電側の力率を常時監視し、力率が悪くなると進相コンデンサの開閉器を投入し、設定値を超えて進み力率になる場合に自動で進相コンデンサの開閉器を開放します。例えば、力率が98%を超えた時点で1段を開放し、96%を下回れば再投入するといった制御を行います。これにより、負荷変動に応じてコンデンサ容量を最適に保ち、過剰な進み力率を防止できます。近年のAPFRはデジタル式が主流で、L1–L2間電流から位相角を算出し、遅れ/進みを瞬時に判別します。既存設備でも後付け可能なタイプが多く、比較的低コストで導入効果が高い手法です。
先の計算例では無負荷時も進相コンデンサを入れっぱなしにしている状況として記載しましたが、そのような運用は大きな設備では非推奨です。とは言え、設備投資も膨大になるので、高圧カットアウトのみで入り切り制御をしない場合も、ままあることは私たち電気エンジニアは理解しておきましょう。
直列リアクトル(SR)の設置
高調波対策としてよく知られる直列リアクトルも、実は電圧上昇抑制に効果を持ちます。高圧母線に設置する進相コンデンサへの直列リアクトルの設置は義務ですので、特段意識されることは無いのかもしれませんが。実際に、6%リアクトルを挿入すれば、コンデンサ容量は理論上約94%に低減します。例えば、「定格容量」が106kvar、6%直列リアクトルを設置した「設備容量」は100kvarとなります。進相コンデンサと直列リアクトルをセットで言う場合にはこのように「設備容量」と呼びます。これにより、軽負荷時の進み無効電力を自然に抑制し、電圧上昇を緩和できます。
適切な容量選定の重要性
最後に、根本的な対策としてコンデンサ容量の適正化があります。かつては「変圧器容量の1/3を目安」とする設計基準が用いられていましたが、現代の設備ではインバータ負荷などが増えており、そもそもの力率が1に近づいているため、この目安はだんだんと不十分になってしまいっています。
実際には、稼働中の負荷データを基に、最大負荷時と軽負荷時それぞれの無効電力を把握し、その差分を補う容量を算定することが望まれます。過大な進相コンデンサの選定は、軽負荷時の過電圧を助長するだけでなく、電力会社から進み力率での契約違反とみなされるケースもあります。容量選定時には、APFR制御段数とのバランスも考慮し、常用負荷に見合う容量+αに留めることが安全です。
まとめ
進相コンデンサは力率改善に欠かせない設備ですが、使い方を誤ると、軽負荷時の電圧上昇という思わぬリスクを招きます。特に無負荷運転時には、進み無効電力が系統に残り、受電電圧を押し上げてしまうため注意が必要です。電力会社の許容範囲である±2%を超えると、機器の絶縁劣化や誤動作の原因にもなります。こうしたトラブルを防ぐには、APFRによる自動制御、直列リアクトルの適正設置、そしてコンデンサ容量の適正化が重要です。設備は「入れっぱなし」ではなく、負荷の変動を踏まえた運用が求められます。電圧上昇の原理と限界を理解してこそ、信頼性の高い受電設備が実現できるのです。

