はじめに:なぜ計装回路にSPDが必要なのか
プラント設備の計装回路では、センサやトランスミッタがDC4-20mA信号という制御の要になる信号をやり取りしています。この信号が途絶えたり、大きな誤差が出たりすれば、設備全体に深刻な影響を及ぼしてしまいます。しかし、落雷や誘導雷、あるいはプラント内の高エネルギーサージによって、DC4-20mAのような微弱な電流で情報をやり取りする計装回路は容易に障害を受けてしまいます。わずかな過電圧でも、入力モジュールの破損やセンサの誤作動につながるからです。
特にプラントでは、屋外に設置された差圧計や流量計などが長いケーブルで接続されているため、雷サージの影響を受けやすい環境にあります。サージが直接流入すれば機器は一瞬で破壊され、制御システムの停止リスクも生じます。そこで極めて重要になるのが、過電圧を制限し機器を保護するSPD(サージ防護デバイス)です。SPDを適切に導入することで、こうしたリスクを大幅に低減し、プラント全体の安定稼働を確保できます。
この記事では、プラントの計装回路を雷サージから守るために、SPDの基本から選定、規格、そして最適な設置場所までを解説します。
SPDの基本原理と計装向けに求められる要件
SPDは、異常な過電圧を検出すると瞬時に大地へ放電することで機器を保護します。しかし、計装回路向けのSPDには下記の特別な要件が求められます。
- 信号特性の維持: 信号の伝送特性を損なわずにサージを逃がす設計が必要です。特にDC4-20mA信号は直流電流が主体であるため、SPDが回路に直列に挿入されても信号精度に影響を与えない低漏れ電流設計であることが重要です。
- 応答速度: 応答速度が遅いSPDでは保護が間に合わず機器破損につながるため、ナノ秒単位での動作が保証されている製品が望ましいです。
SPDの規格と分類
SPDの性能は、国際規格であるIEC 61643シリーズや国内規格JIS C5381シリーズで定義されています。SPDではその適用範囲を示すカテゴリ分類とクラス分類が重要です。カテゴリはA1、A2、B1、B2、B3、C1、C2、C3、D1、D2がありますが、基本的には複数のものに対応していますので、信号用はカテゴリC2を満たしていれば問題ありません。
次に重要なのがクラス分類です。クラスⅠからクラスⅢに区分され、それぞれ試験方法とサージ耐量が異なります。計装回路で注目すべきはクラスⅡとクラスⅢです。
| クラス分類 | 適用範囲 | サージ耐量 | 計装回路での役割 |
| クラスⅠ | 直撃雷の電流が流入する場所(受電設備など) | 最大サージ電流に対応する高エネルギー耐量 10/350μs | 建物全体の一次保護 |
| クラスⅡ | 制御盤レベルでの保護(プラント内に侵入するサージ) | 比較的大きなサージに対応 8/20μs | 制御盤への侵入サージの吸収(バリア) |
| クラスⅢ | 末端機器や信号線(機器近傍での保護) | 残留サージなど微細なサージに対応 | センサ・入力カードなど末端機器の最終保護(最後の砦) |
クラスⅡとクラスⅢの使い分け
- クラスⅡ SPDは、プラント内に侵入する雷サージや開閉サージを吸収し、制御盤の入り口部分に設置され、機器全体を守る「バリア」の役割を果たします。建物全体の雷保護システムと組み合わせることで、より効果的な多段防御が可能となります。
- クラスⅢ SPDは、センサや入力カードといった末端機器の直前に設置されます。クラスⅡで抑えきれなかった残留サージをさらに減衰させ、最終的に機器を守る「最後の砦」です。ノイズ耐性の低い計装機器を確実に守るため、機器近傍に配置することが強く推奨されます。
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多段防御:計装回路におけるサージ保護の基本戦略
多段防御の概念とその必要性
サージ保護デバイス(SPD)による対策は、単一のデバイスに全てを任せるのではなく、雷サージのエネルギーを段階的に処理する多段防御(カスケード保護)で行うことが基本です。雷サージのエネルギーは非常に大きく、制御回路に到達する前に、可能な限り上流でその威力を削ぐ必要があります。もし単一のSPDのみで巨大なサージに対応しようとすると、そのSPDにかかる負担が過大となり、故障や寿命の低下、さらには保護対象機器へのサージ電流の「洩れ(もれ)」が生じるリスクが高まります。
多段防御の戦略は、雷サージの侵入経路とエネルギーレベルに応じてSPDを使い分けることで、この課題を解決します。この方法により、大規模なサージを段階的に吸収し、最終的に機器の保護を達成できるのです。
計装回路におけるSPDの具体的な配置と役割
プラントの計装回路における多段防御は、主に国際規格(IEC 61643シリーズ)で定められたクラス分類(クラスI、II、III)に基づき、以下の二段階の組み合わせが中心となります。
- 一次防御:制御盤入り口(クラスII SPD)
- 役割: 外部からの幹線ケーブルを通じてプラント内部に侵入する、比較的エネルギーの大きな誘導雷サージや開閉サージを一次的に吸収します。
- 設置場所: 制御盤や配電盤の外部引込口、または電源の一次側といった、比較的上流側の端子台に配置されます。ここでサージの大部分を大地に逃がし、後段のSPDへの負担を大幅に軽減します。
- 二次防御:末端機器直前(クラスIII SPD)
- 役割: クラスIIで吸収しきれなかった残留サージや、システム内部で発生する小さな誘導サージを最終的に処理します。
- 設置場所: センサ、トランスミッタ、DCS/PLCの入力カードといった、保護対象機器の最も近傍に配置されます。このSPDが「最後の砦」となり、機器の耐電圧レベルを下回る安全な電圧までサージを減衰させます。計装回路で重要な4-20mA信号の精度を確保しつつ、微細な過電圧から機器の半導体素子を確実に守るのがこのクラスの役割です。
このクラスIIとクラスIIIの組み合わせによる多段防御を適切に構成することで、サージエネルギーを効率的に処理し、プラント全体の制御信号の安定性と機器の信頼性を飛躍的に向上させることができます。
SPD設置場所の基本ルール
制御盤側(二次防御の起点) :外部から信号線が盤内に侵入する、最初の端子台付近にクラスⅡまたはクラスⅢのSPDを配置するのが基本です。これにより、プラント建屋内に引き込まれたサージ電流を迅速に処理し、制御システム全体への影響を最小限に抑えます。
現場機器側(最終防御) :センサやトランスミッタなどの末端機器の直前にも、必ずクラスⅢ SPDを設けてください。これは、ケーブルの途中で誘導されたサージや残留サージから機器自体を直接守る役割を果たし、両方向からのサージ流入を防ぐ上で不可欠です。
接地(アース) :SPDがサージエネルギーを逃がすための接地線は、可能な限り短く太く配線し、要求を満たす接地極に確実に接続することが不可欠です。接地が不適切な場合、SPDが動作してもサージが大地へ逃げ切れず、結局は機器に過電圧がかかって損傷してしまうため、最重要項目として扱ってください。先ほど「太く」と書きましたが、原則的にはカタログ・取説に従い、2~5.5sq程度です。
設置後の点検とメンテナンス
SPDは一度サージを受けると劣化が進む消耗品です。最近のSPDには状態表示ランプが搭載されており、劣化や故障を一目で確認できるものが増えています。例えば、エムジー製のMDPA-24です。さらに、第一エレクトロニクス製のDA3-TPは警報接点を備えおり、監視も可能です。日常点検や定期巡回の際に、この表示が「正常(緑色など)」から「故障/交換必要(赤色など)」に変わっていないかを必ず目視で確認し、記録を残してください。表示に異常が見られた場合は、速やかに交換計画を立てる必要があります。
また、SPDが内蔵するバリスタなどの非線形素子は、微小な電圧変化にも敏感です。そのため、メガテスター(絶縁抵抗計)を使用した絶縁抵抗測定をSPD端子間や端子-接地間で行うと、測定電圧によって素子が劣化したり、誤って作動したりする危険性があります。点検時は、SPDを回路から切り離すか、メーカーが推奨する点検方法(通常は目視確認と電圧測定)に従ってください。
その他、SPDの効果は接地(アース)に大きく依存します。接地線が緩んでいないか、腐食していないか、また、配線が短く、太く保たれているかを定期的に確認します。接地接続が不良の場合、SPDがサージを検知しても大地へ逃がすことができず、保護効果が失われます。
加えて、雷の多い地域や、頻繁にサージが発生する環境下では、SPDの寿命が短くなります。状態表示だけでなく、設置年月日や交換履歴を台帳で管理し、メーカーが推奨する耐用年数や交換サイクルに基づいて計画的な予備品の確保と交換を行うことが、プラントの安定稼働を維持する上で重要です。
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まとめ
計装回路におけるDC4-20mA信号は、プラントの安定稼働を支える心臓部であり、サージ対策は決して欠かせません。この保護の鍵となるのがSPD(サージ防護デバイス)の多段防御です。具体的には、比較的大きなサージを吸収するクラスⅡ SPDを制御盤の入り口に、そしてセンサや入力カードといった末端機器を守る「最後の砦」としてクラスⅢ SPDを機器直前に配置します。
SPDの選定にあたっては、信号特性を損なわない低漏れ電流設計であるか、適切な制限電圧と応答速度を持つかを厳しく確認することが重要です。また、設置後も接地を確実に行い、劣化状況を定期的に点検・交換することで、常に最大の保護性能を維持できます。適切なSPD運用は、単なる機器保護にとどまらず、プラント全体の安全性と生産性の向上に直結する、重要な保全活動なのです。われわれプラントエンジニアはこのことを、しっかりと心に刻まねばなりません。

